Machician

第11話 闇の背中 (8) [△ ▽]

「……今は……」 「今はなんとも思ってない?」 「なんともなんて」 「好きじゃない」 「……恋愛感情は、ありません」 「だからって、心配しないっていうのはあんまりじゃない?」 「…………」 「元恋人としても、もっとちゃんとフォローしてあげて。あたしは、王子…

第11話 闇の背中 (7) [△ ▽]

「それとは別に」 紫恋は横目で、高士とジャージが離れている隙を狙って、シーバリウの耳たぶを掴む。 「ひっ!? し、紫恋さん?」 「ちょっと話があるんだけど」 それを聞いて、シーバリウは真面目な顔になる。 「うめさんのことですか」 「……気付いてるん…

第11話 闇の背中 (6) [△ ▽]

「明日またここで、HACや警察からの反応についての報告、あと私達だけでできるかどうかといった調査についても報告するから」 「どちらにしろ、当日は避難が必要だろう。母さん、一緒に来てくれるか」 「はい、そういうことは早い方がいいですしね。じゃあ高…

第11話 闇の背中 (5) [△ ▽]

「……最悪の場合、そうせざるを得ません」 「!」 シーバリウは、うめへと向いて、そう答える。 「石人の力は、決して侮れないものです」 シーバリウはキーを押す。画面が切り替わり、石人の姿が映し出される。 「『石人』というのはあくまで暫定的な名称です…

第11話 闇の背中 (4) [△ ▽]

「……というわけで、これが解放されるのは、9月1日深夜0時の予定です」 夜、旅館山田屋の食堂。 厨房前に投影されたホログラフィを、ジャージが指さす。 「9月1日深夜というのは、1日と2日の間、ということだね」 「そうです」 神父の確認に、ジャージはうな…

第11話 闇の背中 (3) [△ ▽]

「ねー、なんかあの二人、仲いいよね」 「そうー?」 紫恋が話を振っても、うめは石人の方を見ていた。 「うめ、もう王子のこといいの?」 「え?」 と言っても、まだ石人の方を見ている。 「……どうしたの? いったい」 紫恋も石人の方を見る。石人と言って…

第11話 闇の背中 (2) [△ ▽]

「うーん……」 「どうです?」 ジャージの隣で、シーバリウが機械に向かう。ジャージがパネルを撫でると、その上に表示されたコンソールにグラフが表示される。 「かなり封印が弱まっていますね」 「ってゆーか、これって本当? 38番に直結してる」 「魔法用…

第11話 闇の背中 (1) [△ ▽]

8月27日、昼。 「来ましたか」 待逢神社。 「本当、やっとよ」 白いトラックがバックで近づいてくるのを、シーバリウ、ジャージ、紫恋、うめ、神主、高士が待つ。荷台にはカーキ色のホロが被されていた。 「シーバリウ君、頼めるかね」 「あ、王子、私は…

第10話 あとがき。

今回はちょっと一息……と思いきや、終盤でまたごたごたを。 「HAC特区」という、日本なのに違う国のような雰囲気を感じてもらえればと思います。 で。 すみません、第11話は10月24日からとします。まだ書き上がってないので……。

第10話 HACの街 (26) [△ ▽]

「好きなのは手だけ?」 真美は手を握りながら、そう訊く。 「え、そ、そんなことありません! 僕は、……」 シーバリウも少し顔を赤らめて。 「ジャージさんの飾らない、でも優しい話し方が好きです。顔も、やはり美しいと思いますし、それに……」 シーバリウ…

第10話 HACの街 (25) [△ ▽]

『リッツ、アノードディンケラヴーカッサス』 「え」 シーバリウは掌で自らの両目を覆い、そう唱えた。 手を下ろせば。 そこには。 端正な顔立ち。 はっきりとした瞳。 金色の、透き通るような長い髪。 「ジャージさんって、左目の下にほくろがあるんですね…

第10話 HACの街 (24) [△ ▽]

「僕には、弟がいました」 その、「いました」という表現。 「5つ下の弟でした。僕よりもおとなしい、物静かな方でした」 「シーバリウよりもなんて、よっぽどね」 「本当です。ちょうちょも怖がるくらいでしたから」 「チョウチョねぇ」 「……母は」 言葉を…

第10話 HACの街 (23) [△ ▽]

「……大丈夫?」 「っ」 その声すらも、母親の声。 シーバリウの手が、震える。 「この目を視た人は、私の姿形を自分の母親として認識してしまう……そういう魔眼とでも言える魔法が掛けられているの」 「少しは抵抗できると思ったのですが、完全にそう見えます…

第10話 HACの街 (22) [△ ▽]

「まず、腕の接合は完全に完了したから。でも、因子の定着にあと10時間くらい必要だから、それまではこのコルセットで固定しっぱなし」 「10時間経ったら外していいんですね」 「そ。そのあとは元通り使えるから」 電車の中。 ボックスシートの中で、向かい…

第10話 HACの街 (21) [△ ▽]

「……いてくれたんだ」 と言いながら、ジャージは微笑んだ。 診察室の前で座っていたシーバリウは、目を丸くしていた。 「……大丈夫ですか?」 夜11時過ぎ。 診察を出てきたジャージは、甲冑のように巨大な保護具に動体が包まれていた。それは白く、両肩を完全…

第10話 HACの街 (20) [△ ▽]

「うめ、紫恋の所行ってて」 「え、うん……」 ジャージに押されて、うめは紫恋へとしがみつく。 「シーバリウ、あの白衣達に気を付けてて。多分あれ作ったの、あの人達だから」 「はい」 シーバリウは横目で白衣達を見る。一人は壁に背をもたれてうずくまり、…

第10話 HACの街 (19) [△ ▽]

「……うめ、むこうに行くよ」 「……でも……」 言葉には、未練があった。 その本心は、嘘ではない。 だが。 体は、言うことを聞かなかった。 「うめ!」 「ジャージさん、うめさん!!」 「!!」 うめは後ろを振り向く。紫恋とシーバリウが格納庫へと飛び込んで…

第10話 HACの街 (18) [△ ▽]

「……こっちに来てるな」 「ああ」 APであろう、跳んでいった白衣は、麦わら帽子の男に近づこうとしていたが、立ち止まり、逆に格納庫の方へと戻ってきていた。 音は、聞こえなかった。 「危ない!」 ジャージが梅を抱き寄せる。二人の姿が重なった瞬間、遠近…

第10話 HACの街 (17) [△ ▽]

「遅いわねー」 「忘れてるってことはないと思うんだけど……」 ジャージが治療を受ける3時半が近づいていた。 「こっちだ!!」 「どこだよ!」 「おい、あれじゃないか!」 男達の大声に、二人はつられる。廊下のひとつ向こう、巨大な窓が並ぶ通路に人だかり…

第10話 HACの街 (16) [△ ▽]

男は一番下まで降り、壁を飛び越える駆ける。 「あたしのバッグ!」 実験をしている区画に飛び込むと、それを避けるように再び大きく跳ぶ。また、区画によっては力場が張られているのか、見えない壁にぶつかって、その度に肩に掛ける紫恋のバッグを歪ませて…

第10話 HACの街 (15) [△ ▽]

シーバリウは、唇を噛み締めた。 「紫恋さん」 シーバリウは紫恋を呼び止める。広大な宙の中で、黒い髪がはためく。 「? 何?」 「……十分に注意を払ってください。ここには、未知の機械や兵器が多くある、ということです」 「確かに」 紫恋も唾を飲む。力場…

第10話 HACの街 (14) [△ ▽]

「民間人にそういうこと頼んでいいんですか!?」 建物の中、ほの暗い灰色の廊下をみね、紫恋、シーバリウが駆けていく。 「ちょうど今、人が足りないの。この特区じゃこのくらいのこと気にしちゃだめだめ」 切断面を綺麗に填めると、みねは首を曲げて元あっ…

第10話 HACの街 (13) [△ ▽]

「大丈夫ですか、紫恋さん!!」 「ああもうっ!!」 屋根の上で待ち構えるシーバリウが、ゆっくりと降りてくる紫恋を両腕で抱きかかえる。紫恋は首を振って、無理矢理意識を覚醒させていた。 「大丈夫、ちょっと目眩がしただけ。羽根切れてない?」 「はい…

第10話 HACの街 (12) [△ ▽]

「紫恋さん!!」 空を飛ぶ紫恋へとシーバリウが併走する。 「杖無くて飛べるの?」 「ちょっと無理矢理ですけど……今は押さえるのが先です」 眼下、平行に並ぶ長屋をまたぐように飛んでいく。長屋の屋上は障害物が多く、その間に隠れるようにして逃げていく…

第10話 HACの街 (11) [△ ▽]

「じゃ、どうしようか」 「とりあえず、本部というのを探しましょう。あまり時間はないみたいですし」 レストランの階下、階段を降りた所で、シーバリウは紙のパンフレットを取り出す。 「現在位置は分かる?」 「えーっとですね」 周囲の風景や店名と、パン…

第10話 HACの街 (10) [△ ▽]

「外内の方が、HAC、っていうか多分調停委員会になんだけど、壊滅させられちゃったのよ」 「その時いきなり、ですか」 「そ。そのあと警察の手が入ったから分かったんだけど、違法なAPとか作ってたみたい」 「違法?」 「HACはAPを無理矢理作っちゃいけない…

第10話 HACの街 (9) [△ ▽]

「ワイバーンの軟骨揚げと嗚咽窟茸のソテー、それと愛欲の涙」 「フィナードとアベンツで」 オープン長屋の2階、色とりどりの料理がホログラフ広告で舞うレストラン「玉座」、その窓際というか外際の席で、紫恋とシーバリウはオーダーを頼んでいた。 「王子…

第10話 HACの街 (8) [△ ▽]

「あれ? もういいんですか」 うめは、あまりにもあっさりと終わったジャージの手続きに拍子抜けしていた。 「ああ、待つ必要はないから。全部終わったら家に次の会員証が届く仕組み」 「そうなんですか。……やっぱり継ながらないです」 携帯を向けると「エラ…

第10話 HACの街 (7) [△ ▽]

「これ、借威対象はどのお方でしょうか」 「んと……」 頭のはげ上がった男が、宝石の上で指をぐるりと回す。 「このへんのがエフィフォ神、こっちが衛紀璃守、この辺のはその他ってとこだな」 「この衛紀璃守っていうの……」 紫恋がその宝石の上に手をかざすと…

第10話 HACの街 (6) [△ ▽]

「今、山田さんの筋力はこのように偏っています」 白衣を着た医師が、ホログラフィを指し示す。うめと同じ背格好のキャラクターがくるくるとまわり、その表面は赤い箇所と青い箇所とがある。 「筋力は全体のバランスが大事なんです。腕を曲げるだけでも、内…