第10話 HACの街 (16) [△ ▽]

 男は一番下まで降り、壁を飛び越える駆ける。
「あたしのバッグ!」
 実験をしている区画に飛び込むと、それを避けるように再び大きく跳ぶ。また、区画によっては力場が張られているのか、見えない壁にぶつかって、その度に肩に掛ける紫恋のバッグを歪ませていた。
 それにしても。
「速い……」
 みねと挟撃するはずだったのが、想像以上の速さで移動するため回り込まれるように逃げられていた。
「え?」
「紫恋さん、こっちです!」
 そのうえ、空中も区画が仕切られており、広大な空間はその見た目とは裏腹に、見えない迷路と化していた。
「逃げられちゃう!」
 紫恋は男の進む先を追う。ジオフロントの片側は真っ平らな壁となっており、窓やハッチが並ぶ、ビルの側壁となっていた。
「そこの人達!!」
 上から声。みねと同じ青い制服を着た女性が上空から降りてくる。
「浜野巡査から連絡のあった、協力者の方ですね」
「はい!」
「引き続き、協力をお願いします!」
「ええーっ!!!!!!」
 紫恋は不満たっぷりに切り返した。
「え?」
 と、逆にその婦警は目を丸くした。
「……あなた達、HACの会員ですよね」
「違います」
「僕は一応そうですが……正会員ではありません」
……ポンコツっ!!
「うっさいわね、特区にいて魔法が使えるんなら同じようなもんでしょ!!」
 遠くから、みねが洞窟全域に響き渡るくらいの大声で怒鳴る。
「そういう問題じゃないっ!!」
「そんなことよりっ!! あれ私のバッグなんです!!」
 紫恋は空中でじたんだを踏んだ。