第10話 HACの街 (18) [△ ▽]

「……こっちに来てるな」
「ああ」
 APであろう、跳んでいった白衣は、麦わら帽子の男に近づこうとしていたが、立ち止まり、逆に格納庫の方へと戻ってきていた。
 音は、聞こえなかった。
「危ない!」
 ジャージが梅を抱き寄せる。二人の姿が重なった瞬間、遠近感が狂い、0.5秒後に白衣がうめの脇をかすめて格納庫の奥へと跳んでいった。
「え?」
 背後で鈍い音が響く。
「北山さん!!」
「う、あ」
 格納庫の奥の壁を、うめき声を上げて白衣がずり落ちていく。口からは、血が流れていた。
 うめの側にいた白衣の一人が駆け寄り、もう一人はドアを抜けて格納庫の外へと出ていた。その出口から、逆にギャラリーの何人かが覗き込んでいた。
「うめ、私達は逃げた方がいいよ」
「でも、あれって王子達なんだよね」
「! そうなんだけど」
 片腕では、どうすることもできない。この状態でうめを守ることができるとは思えなかった。
「でも!」
 ジャージは無理矢理うめを押していく。が。
「来た!」
 麦わら帽子が格納庫へと飛び込んでくる。
「#039!」
 飛び込んできた男は着地し、音を立てて床を滑る。止まった時、すぐ側に白衣が二人。一人は目を剥いて倒れていた。
「#039、何をやっているんだ!」
 その声に男は振り向く。白衣の顔は、それまでの赤から白へと変わる。
「逃げなさい!!」
 その声に反応して、白衣の男は転がるように跳び退く。
 直後、麦わら帽子の男が跳ね、白衣の背後の壁を蹴りつけていた。
「……っ」
「……」
 ジャージは、動けないでいた。
 圧倒的な戦力差。
 恐らく「犯人」であろう、相手の立場。
 だが何より。
 左脇で震えるうめが、何よりも心配だった。