第10話 HACの街 (17) [△ ▽]

「遅いわねー」
「忘れてるってことはないと思うんだけど……」
 ジャージが治療を受ける3時半が近づいていた。
「こっちだ!!」
「どこだよ!」
「おい、あれじゃないか!」
 男達の大声に、二人はつられる。廊下のひとつ向こう、巨大な窓が並ぶ通路に人だかりができていた。
「やっぱりだよ、#039だよあれ!」
「どうすんだよおい」
 ただ外を見ている人達に混じって、大声を上げる白衣の男達がいた。その声音は、不安な色を含んでいた。
「……こっちで先に捕まえるしかないだろ」
「無理だよ! 警察がもう来てるじゃないか!」
「逃げた方がいいんじゃないのか?」
「俺……行ってくる」
 男の一人が走り、通路の行き当たりのドアを開ける。その奥から金属音が響き、地面を跳ねていく白衣の姿が窓の向こうに見えた。
「なんなのかな」
「……シーバリウ達だ」
「え?」
 まさかという顔でうめはジャージを見る。だが、ジャージのゴーグルにはその姿がはっきりと映っていた。
「……テクタイト邪魔!」
「えっ、ちょっとジャージさん!」
 ジャージも通路の奥へと走っていき、うめはそれを追い掛ける。ドアの向こうは巨大なドックになっており、その片側が完全に空き放たれ、洞窟へと続いていた。
「きれい……」
 洞窟とは思えない、空から差し込む青い陽光、奥には赤い壁面、そのグラデーションは純粋に美しいと思えた。
 だが、その光景は、ジャージの眼中には入らない。
「やっぱり、シーバリウと紫恋だ!」
「……本当だ」
 うめの目ではシーバリウは確認できなかったが、金色に輝く二筋の閃光は、見間違えることのない、紫恋の両翼だった。
「なんだよあれ、変なのがいるぞ」
「変!?」
 格納庫に残った白衣二人に向けて、うめはぎろりと睨み付けた。