第10話 HACの街 (7) [△ ▽]

「これ、借威対象はどのお方でしょうか」
「んと……」
 頭のはげ上がった男が、宝石の上で指をぐるりと回す。
「このへんのがエフィフォ神、こっちが衛紀璃守、この辺のはその他ってとこだな」
「この衛紀璃守っていうの……」
 紫恋がその宝石の上に手をかざすと、体の中がうずいた。
「多分、魔法力が強くなってるんだと思う……これって稀法石?」
「いえ、法玉の一種ですね。魔法は宿っていませんが、借威対象の魔法力を強める効果があるみたいです」
「ああ、紅葉の瞳って言ってな、元々は工業用なんだけども、その流れ品を宝石に加工したもんなんだ。だからそこらの法玉よりかずっと安いぞ」
 値札を指さす。
「確かに安いですね……」
 でも、僕の今の額だと……どうしましょうか……。
 ちらと、すぐ横で真剣な眼差しを法玉に向ける紫恋。
 その真剣な顔にほだされて。
「私、買う!」
「え」
 シーバリウが言い出す前に、紫恋は一番強く感じた法玉を手に取り、IDカードを取り出す。
「あ、いえ」
「ううん、これ私のお金で買う。その方がやる気になるから。そう」
 所有者認証をする親指に力が入る。
「これは、私の決意」
「はいよ」
 足下から少し錆びたカードリーダーを取り出し、カードに近づける。音が鳴り代金が支払われる。
「お嬢ちゃん、魔法使えるんか」
「まだ駆け出しなんですけど、でもがんばろうと思って」
「そうか、その歳からじゃ大変かもしんないけどがんばんな」
「え?」
 男から、包装された法玉を受け取りつつ、シーバリウの方を向く。
「借威対象によって違いますからそうとは言い切れないですけど、魔法が使えるようになるにはそれなりの時間が掛かりますから」
「そっか。でもがんばるから、私」
「紫恋……さん?」
 その紫恋の瞳は、熱意に燃えていた。