第10話 HACの街 (8) [△ ▽]

「あれ? もういいんですか」
 うめは、あまりにもあっさりと終わったジャージの手続きに拍子抜けしていた。
「ああ、待つ必要はないから。全部終わったら家に次の会員証が届く仕組み」
「そうなんですか。……やっぱり継ながらないです」
 携帯を向けると「エラー:プロトコルが異なります」と表示されていた。
「やっぱりね、ここは規制が厳しいから、手続きしないと使えないのかも」
「ええーっ? じゃあ紫恋達に会えないってことですか!?」
「大丈夫でしょ、この場所は探せるだろうし、治療の時間は言ってあるんだから。だいたい」
 ふん、と鼻を鳴らす。
「迷子になったのは向こうなんだから、とりあえず放っておきましょ」
「そうなんですけど……」
 ジャージさんとだけ、っていうのもちょっと不安かも……って、なんで私、こんなにナーバスになってるんだろう。
「とりあえずどっかで食べよ。ちょっとおなか空いちゃった。レストランは2階だったかな」
 カードや書類をバッグにしまいながら、エレベーターへと向かう。
「あ、私しまいます」
 片手ではしまいづらそうなジャージを見かねて、うめがバッグを手に取る。
「……その肩、私の時とは違うんですよね」
「うん、全然違う。うめはAPじゃなかったし、その場では治癒魔法を使わなかったからね。私の場合、元々APで、しかもあの時の魔法は……」
 肩に手を当てる。
「復元魔法って言って、一時的に傷ができる前の状態に戻しただけだから。しかも後遺症で簡単には付かなくなってるし」
「それを今日治すんですか?」
「そういうこと。ま、APのと魔法使うらしいけど。どこにする?」
 本部の2階には様々なレストランが並んでいた。
「レストランは普通ですね」
「っていうか、外のはちょっと勇気いるね……」