第10話 HACの街 (14) [△ ▽]

「民間人にそういうこと頼んでいいんですか!?」
 建物の中、ほの暗い灰色の廊下をみね、紫恋、シーバリウが駆けていく。
「ちょうど今、人が足りないの。この特区じゃこのくらいのこと気にしちゃだめだめ」
 切断面を綺麗に填めると、みねは首を曲げて元あった位置で笑顔を作った。
「……ロボット、なのですか?」
「ううん、APと機械のハイブリッド。元々は人間だから」
「APがベースになっているんですか」
「生体部品は無機部品を排除したがって拒否反応が強いから、それをAP化で抑える意味もあるの。元々のコンセプトは、身体強化は機械がして、それ以外の機械には無理なところをAP化で強化、っていうものなんだけど」
 行き当たり、ドアが無理矢理引き剥がされた痕。覗き込むと、下は果てしない暗闇になっていた。
「こっちですか?」
「今、ジオフロントの半解放実験区に着く所」
 腕を伸ばし、前腕から光が生まれ、ホログラフィが表示される。立体のマップを、光点が移動していく。
「あのあたりは強化型APやセラフの運動能力試験をしてるところだから、誰か捕まえてくれるといいんだけど。じゃ、ついてきて」
 といいつつ、みねはタイトスカートをはためかせて下に降りていく。
「行こ、シーバリウ」
「……紫恋さん、その前に上着ません?」
 羽根を出すために、紫恋は上着をたくし上げていた。たわわな胸が、ベージュのブラに乗って揺れる。
「気にしない気にしない」
 その胸を振るわせて、紫恋も暗闇の中へと飛び込む。
「……」
 杖代わりのデッキブラシを持って、シーバリウも落ちていく。
 その縦穴は思ったよりも深くなく、数秒で、広大な空間へと出た。
「うわぁ……」
 それは。
 幻想的な、地下世界だった。
 頭上からは青白い陽光が差し込み、緑色のつららのように垂れ下がる無数の岩石を緑白色に煌めかせる。
 眼下に広がる広大な空間は、ホログラフィや実体を持った柵によって仕切られている。それぞれの区画では、超高速で移動する人らしき物体や、セラフ、飛行物体があった。低い音を響かせて、戦車砲のような巨大な砲塔での射撃訓練も行われていた。
「あそこです!」
 みねが指を指すと、ちょうど中央あたりに麦わら帽子が見えた。どうやって渡ったのか、力場壁に体を振動させられながら、宙を渡っていた。