第10話 HACの街 (13) [△ ▽]

「大丈夫ですか、紫恋さん!!」
「ああもうっ!!」
 屋根の上で待ち構えるシーバリウが、ゆっくりと降りてくる紫恋を両腕で抱きかかえる。紫恋は首を振って、無理矢理意識を覚醒させていた。
「大丈夫、ちょっと目眩がしただけ。羽根切れてない?」
「はい、大丈夫です。物理的なものではありませんし」
 紫恋を下ろしながらも、その視線は男が突っ込んだプレハブへと固定されていた。プレハブは完全に壊れ、周りには黄色い煙が待っていた。その中の様子は、見えない。
 突如甲高い音が鳴り響き、紫恋は見上げる。
「何!?」
 見上げると、紫恋とシーバリウを見張るように宙を舞う女性がいた。青い制服を着て、笛を吹いている。
「警察です!! 特区内で許可無く魔法を使用してはいけません!」
「え”、そうなの?」
 紫恋は思わず、羽根を隠そうとする。
「待ってください! 窃盗犯が」
 空を切り裂き、プレハブから金属片が放たれる。鈍い音を立てて、それは、警官の首を、刎ねた。
「え」
「!!」
 その頭部が宙に舞い、シーバリウが反応する間もなく。
 心地よい金属音と共に、頭部を失った体のその左太腿から金属の銃身が現れ、プレハブへと向けて掃射する。音もなく放たれた無数の弾丸は、着弾と同時に黒い被膜となって着弾点を広く覆った。
「と」
 上から落ちてきた頭部を手で受け止め、脇に抱える。
「ふぅ、危ない危ない」
「なんか色々とアブナイんですけど」
 切断された生首からは煙が上がっていた。
「大丈夫、応急処置の修復をしてるだけだから。あ、まずいわね、建物の中を逃げられてる」
 脇に抱える頭が紫恋へと向く。
「あなた、お名前は?」
「……待逢、紫恋です。こちらは友人の芝隆太郎」
「芝、隆太郎です」
「んー、評価の難しいこと言うのねー。ま、いっか」
「なんの話です?」
「私は浜野みね巡査です」
 左胸のネームプレートに触れると、名前と顔写真、階級がホログラフィとして表示される。
「で、ちょっと協力してくれない?」
「はぁ!?」