第11話 闇の背中 (5) [△ ▽]

「……最悪の場合、そうせざるを得ません」
「!」
 シーバリウは、うめへと向いて、そう答える。
「石人の力は、決して侮れないものです」
 シーバリウはキーを押す。画面が切り替わり、石人の姿が映し出される。
「『石人』というのはあくまで暫定的な名称ですし、正確な名称もありません」
「ゴーレムっていうんじゃないの?」
「まぁ近いかもしれないけど、本当のゴーレム、じゃないからそういうのもね」
 紫恋の問にジャージが答える。
「石人の中心には、芯となる法玉が入っています」
 画面が断面図に変わる。胴体、八つの巨大な正方形状の石に囲まれたその中央に、赤の円が描かれている。
「これは模式図です。実際には親指ほどの小さな玉でした。僕の感想を言えば……」
 思い出す。
 小さな社で見た、恐怖の象徴とも言うべきそれを。
「……僕のいた彼の地では、魔法で作られた戦争兵器にあのような法玉が使われていました。攻撃と破壊の意志、そしてそれを成し遂げるだけの戦闘能力を起す魔法が植え付けられており、それをもって、木、土、石、金属等によって姿形を成す……この石人は、それに似ています」
 シーバリウは、そう言って、唇を噛む。
「兵器……」
「じゃあ、王子の世界ではどう対処してたの?」
「相手によります。高名な魔導師に依頼した際は一瞬で消え去りましたが、それが不可能な場合には、数千人の軍勢で取り囲み、法玉を取り出して砕く、といった方法を取らざるを得ませんでした」
「……」
 つまり、それだけの犠牲が出た、ということ。
「HACや警察が動いてくれようがくれまいが、私達の手に余る存在かもしれないなら、ここいら一体全員避難して、解放したらとんずらする、っていうのは多分一番現実的な選択肢だから」
「私もそう思う。もはや我々の手には負えないものになっていると感じている。それに」
 神主はシーバリウの方を向く。
「何よりも人命第一だ。ひとつ確認しておくが」
「はい、なんでしょう」
「もし解放をせず、その爆発のようなものが発生したとする。それは、石人にどれだけ痛手を負わせることができるのかな」
「ある程度のダメージは与えられるかもしれませんが、致命的なものではないでしょう。それを攻撃手段とすることはお勧めしません」
「父さん!」
「手段は多い方が、いい」
 神主は毅然と、言った。