第10話 HACの街 (19) [△ ▽]

「……うめ、むこうに行くよ」
「……でも……」
 言葉には、未練があった。
 その本心は、嘘ではない。
 だが。
 体は、言うことを聞かなかった。
「うめ!」
「ジャージさん、うめさん!!」
「!!」
 うめは後ろを振り向く。紫恋とシーバリウが格納庫へと飛び込んでくる。
「うめ、大丈夫!」
「う、うん」
「紫恋さんッ、注意を」
 空を切る音。
 うめに気を取られていた紫恋に向けて、男が、跳ねた。
「!」
 それは、ほんの僅かな時間。
 紫恋は、反射的に左腕を跳ね上げ、それを追って羽根が紫恋の刃となり、男を薙ぐ。
「ひぎっ!」
 男は脇腹に直撃を受け跳ねとばされる。が、宙で体を捻り、天井に並ぶシャフトを掴み、下を見下ろす。
「投降しなさい!!」
 シーバリウ達を追って、警官二人も入る。みねは右太腿から銃身を出し、もう一人はリングガンを構える。
「……」
 麦わら帽子の男は、何を考えているのか分からない目を向けている。パイプを掴み、壁に足を掛け、オランウータンのように悠然としていた。
「紫恋、大丈夫!?」
「大丈夫、ちょっと痺れた感じするだけ」
 紫恋は羽根を畳み、男を睨み付ける。だが。
「……お願い、無理しないで」
「! ……うん、分かってる」
 うめの目には、紫恋は目に見えて疲れていた。それがうめの声音に出て、紫恋は、優先順位を変えた。
「大丈夫」
 バッグはこの際、いいや。