第12話 たったひとつの確かな理由 (24) [△ ▽]

「でも現実問題として……」
『聞こえるの。確信はないけど……もう少し下がって』
 ジャージはシーバリウの前へと出て、獣を牽制する。
「聞こえるって何がです?」
 耳に届く音は、獣の吠え声、岩が動く音、何かが瓦解するような……。
「なんだろう……あの二人が戦ってる音?」
 どちらの方向からかも分からなかった。
「あ」
 と、紫恋は間抜けな声を出して。
「高士、こっち!!」
 と、見えもしない弟の名前を呼んだ。
 瞬間、通路の出口側で、黒いしぶきが撒き散らされる。明らかに憎悪と悲鳴の混ざった鳴き声が上がり、黒い獣が消えていく。
「ねぇさん!?」
「え、高士君!?」
『リングガン! みんな下がって!!』
 縦になるようにジャージは前に出て、後ろにシーバリウと紫恋を隠す。
 獣は背後からの攻撃に為す術無く破壊されていく。体の半分が撒き散らされ、一瞬後に消え去る、それが大きなうねりのように出口から起こっていく。
 獣が消え去ったその向こうからリングガンを持った兵士が現れ、その後ろ高士がいた。
「姉さん!!」
「高士!? あんた何やってんの!」
「何やってるって、助けに……」
「分かってるわよ、行くわよ!!」
 と、紫恋は高士の手を取り、出口へと向かう。
『私達も! うめ!』
「うん、あ、お願いします!」
 うめも後退し、入れ替わり入る兵士に足止めを頼む。兵士達はワース用のインナーを着て、少し不格好な姿でリングガンを獣に向けていた。
『って、あんた達JCTHUの人達!?』
「そうだ、三峯だ。ここは任せておまえ達早く行け!」
 ま、税金払ってるんだからそのくらいはがんばってもらわないと。
 とは口に出しては言わず。
『さ、早く行こ!』
「え、ちょっと!」
 ジャージはシーバリウを抱きかかえ走る。
『ほらね、なんとかなったでしょ?』
 もう見飽きた赤い回廊、その先に、青い光、外の光が差し込むのが見えた。