第12話 たったひとつの確かな理由 (16) [△ ▽]

『あ”ーっ、何体いんのよっ!!!』
 ジャージの赤いワースが、その身体能力の高さを活かして動き回る。周りを取り囲む黒い獣を叩き、蹴る。何度か爪や牙がワースに突き立てられても、わずかの傷を負うだけで弾き飛ばしていた。
「本当に丈夫なんですね、それ」
『攻撃力は微々たるもんだけどね。そっちは任せるから』
「はい!」
 シーバリウは剣を振るう。魔法によって運動能力を強化していたが、その動きに無駄は全くない。獣の足を掻い潜り剣を振るえば、その切っ先は脇腹を切り裂き、獣は傷跡から崩壊して姿を消した。
 正面から挑むのは得策ではない、と思い付く智慧があるのか、黒い獣は川を流れる汚泥のようにシーバリウの背後へと回り込む。
『そうはいかないのよね!』
 そのさらに背後へと回り込んで獣を叩き、拡散させる。ジャージはシーバリウの背後へと迫る獣たちを蹴散らして、死角から攻撃させない。獣達の中途半端な知能はシーバリウとジャージを天秤に掛け、その躊躇をジャージは突く。
「うわぁ、あのふたりの連携すごいね。……あんなに仲良かったの?」
「つか多分できてる」
「ええーっ!? 気付かなかった……」
「私も気付いたのつい最近だし。ねー、どうすればいいのー!!」
 上空で周回する紫恋が、真下で戦うシーバリウとジャージに指示を仰ぐ。
『どうするの!? ここはともかく、通路は物理的に通れないと思うんだけど』
「なら、操っている者を」
「できる、かな」
「!!」
 シーバリウの足が、止まる。
 取り囲んでいた獣が、シーバリウ達と距離を置くように離れ、輪を作り見守る。
 シーバリウ達の先、獣の道を通る、魔族。
「ようこそ侵入者諸君。私はサナツカ。君達を異物と見なして排除する者だ」
「――そう見なして頂けるのなら助かります。我々は自主的に退去いたします。ご心配をお掛けしてしまい申し訳ございませんでした」
「それはもったいない。あなた方は外で生きていても何の役にも立ちません。むしろ彼らの餌食となれば、生命を無駄にしない効率的な利用方法ではないかと」
「……何をお望みですか」
「ふふ、一人差し出せば三人活かしてやるのもいいか」
「お断りします」
「即断か。その浅はかな考え、死して悔やめ」
 その魔族は、笑みを浮かべて、無数の羽根を広げた。