第9話 君がそこにいるから (7) [△ ▽]

『どうしました?』
 ワースの1人が訊く。
『いや……』
 視界の隅に置いた魔法力のレーダーマップは、全く反応していない。
『何もないのが逆に不安なだけだ』
『そういうものでしょう。大丈夫、問題ありませんよ。JCTHUへの通報は確認していませんし、調停委員会にとっては歯牙にも掛からなかったようですから』
『確かに、最近はテロや紛争が多発しているからな、それと比べればここは大した被害ではないのかもしれない、が……』
 それでも。
『調停委員会が数十人レベルの損害を見逃すだろうか』
『過去実績にもそういう状況はありますから。調停委員会を神と呼ぶのも、マスコミや一部団体の作為によるものですし』
『神、か……!?』
 レーダーマップに、光点が現れる。
 瞬間、視界上に警戒線、1メートル上空に現れた装甲多脚が、音を立てて着地する。
『アルファ01から04、3番弾に変更、エネミー01に攻撃開始、アルファ05及びアルファ06は西側の索敵をカバー、それ以外は警戒続行』
 ワースの4人がリングガンを向ける。白色のアサルトライフルが音もなく持ち上がる。
 爆発音と共に周囲に白い煙が立ちこめる。
『スモーク、アルファ04除去しろ……いや』
 すぐ近くのワースに近寄り、ハンドコードで指示を出す。指示を受けたワースがうなずき、リングガンの弾丸を変更、すぐそばの地面に向けて撃つ。
 衝撃波と暴風が霧を吹き飛ばす。
『な……』
 霧の中から現れた装甲多脚は、その両腕に、黒き石人を持ち上げていた。その両腕には十重二十重に魔法陣が閃いている。
『馬鹿な、運ぶ手段があるというのか……』
 だが、魔法に「絶対」は存在しない。
 その状態のまま、装甲多脚は方向転換、境内の端へと走っていく。
『アルファ01から05及びブラボー01から02、デルタ02の指揮の下追尾開始。行きます!』
『了解した』
 デルタ02の返事と共にワース8人が装甲多脚を追う。返事をしたデルタ01が、残ったメンバーに指示を出す。
『ブラボー03からブラボー05は全周囲警戒、チャーリー01及び02は機材を停止させろ』
『は、はい』
 残った6人のワースは、4人が周囲を警戒し、その中央に石人を囲むようにあった五角形の機材とその側に立つ2人のワースを守るようにした。
『……あれ?』
 機材を停止しようとまたいだワースが、何かに当たる。
『……ターゲット、存在します! あれはダミーです!』
『何!?』
 デルタ01が振り返る。
 確かにそこには石人はない。
『!』
 コンソールを表示し、超音波表示を加える。
 そこには、確かに巨大な物体が存在した。