第8話 アイとコイと (5) [△ ▽]

「魔法って、どうやって増やせばいいんですか?」
 家に帰る電車の中で紫恋が質問する。紫恋達の最寄りの駅までですら、1時間半掛かる距離だった。
「やっぱり王子に頼むしかないのかな」
「最初に覚えた時と同じ方法でもできるだろうけど、それってイレギュラーなんだよね」
「そうなんですか」
「シーバリウは全然関係ない立場だからねぇ。借威対象の神官に教わるのが一番なんだけど」
「借威対象ですか」
 その存在も概念もピンと来ない。
「訊くとしたら、一番詳しそうなのは神主さんだけど……お父さん達に訊くの、嫌?」
「嫌っていうより怖い、かな。ずっと黙ってきたことだったわけじゃないですか、それを今さら訊くっていうのはちょっと……」
 わだかまりもある。父と高士が黙っていたことへの非難、母に対しての偏見、そういったことへの気持ちの整理が付いていない。
「でも訊いてみます、ちゃんと。その方がすっきりするし。なんかごめんなさい、変なこと訊いて」
「いいっていいって。また敬語になってるよ」
「あ……」
「時々出てくるね、それ」
「……多分、こっちが素……素じゃないか……私自身、よくわからないんです。どっちが本当の自分なのか」
「本当の自分、ね……」
 ジャージは外を見る。
「判るだろうけど、私はそういうの知られたくない。だから自分を作ってる。でも、その作った自分も、時間が経てば自分の一部になってきて、いつかどっちが本当の自分なのか判らなくなってくる」
「……」
「それに、周りもその作った自分に見慣れてるから、その自分を求めてくる。だからやめられなくなる。そうなるとさらに元々の人格が否定されたみたいで傷ついてくる」
「そうなのかな……」
 確かに、素の自分をうめに見せることは、怖い、そう思う。
「あ、でもうめは大丈夫だと思うよ」
 と、心を見透かしたようにジャージがフォローする。
「なんです急に」
「あのね、命張ってまで助けに来る友人なんてそうそういないって。あんた達は大丈夫、賭けたっていいから」
「じゃあ一千万円掛けてください、友情壊しますから」
「思いっきり八百長じゃない」