エピローグ (9) [△ ▽]

 式が、始まる。
 古式に則り、シーバリウは金色の鎧、真美は純白のドレスに身を包み、赤い絨毯の上を進んでいく。
 その横には、各国の王や王妃、親族達が並ぶ。その中にはウムリルや、コメネケ国の紋章を身に着けた者もいた。
 赤い絨毯の先には神官が立ち、その後ろの壇上に、王と王妃がいた。王の視線は全く異なる方向へと向けられ、無関心を装っているように見える。対して王妃は、歯を食いしばり、何かのきっかけがあれば叫び出しそうな気配すらあった。
「シーバリウ殿、マナミ殿」
 神官の前まで来ると、その神官、じいやは、厳かな中に柔らかい笑みを浮かべて、言葉を続けた。
「創主ゴナツ神の命により、両名を神国の主と成す。誓約の杯をもって、永遠の契とする」
 神官は、赤いワインが注がれた純金の聖杯をシーバリウへと渡し、シーバリウはそれを口に付け、次いで真美へと渡し、真美も口を付け、最後にシーバリウへと返し、シーバリウが全てを飲み干す。
フィアリート創主の御加護を授け給え
 神官の呪文と同時に光が二人を包み込み、それに合わせて出席者から拍手が上がる。
 シーバリウと真美の目が合う。今にも、涙が溢れそうになる。
 でも、涙を流すことはまだ、できない。
 ゆっくりと、本当にゆっくりと、真美は来賓へとほほえみを向ける。そうして、参列者一人一人を、ミル。
 瞳に宿る魔法が発動。
 それは、掛けられた者が気付かないほどか細い魔法。だがその強度は、どんな抗魔法力をもってしても防ぐことはできない、かつて真美が持っていた魔法を変位し強化したもの。
 真美はその瞳をその場にいる全員へと向ける。王と王妃の顔も。自分の結婚を最後まで反対した二人を。
 この魔法が、数日後、数ヶ月後、数年後に効果を発揮する。その時には――。
 一瞬、気が遠くなり、よろめきそうになる。バランスを崩す前に、シーバリウが真美を抱きかかえる。
「大丈夫ですか?」
「……うん」
 笑顔を見せて、体を起こし、二人は赤い絨毯を逆の方向へと歩いていく。
 その先には、青空。城の五階、テラスの下の広場には、街の民が広場を埋め尽くし、歓声を上げていた。
 これまでの戦乱の世とは決別するための、平和の象徴としての二人。
 片方の手は群衆に向けて振られ、もう片方の手は互いの手を強く握りしめている。
「もう言いませんから、一度だけ言わせてください……ごめんなさい」
「……うん、今日は許す」
「僕はやっぱり、根っからの王子みたいです。僕は、この人達のために生きたい」
「分かってる。私はそんなシーバリウが好きなんだから、胸張っていていいんだから」
「ありがとうございます」
「私こそ」
 真美はシーバリウの手を引いて、自分の方へと向かせる。シーバリウと真美が見つめ合い、群衆から歓声が消え、固唾を呑んで見守る。
「ずっとずっと、一緒にいてくれる?」
「もちろんです。絶対に、何があっても離しません」
 二人が唇を重ねると、拍手と共に割れんばかりの歓声が上がる。その歓声が鳴りやむまで、二人は、唇を、体を、手を離すことは、なかった。


 完