エピローグ (3) [△ ▽]

「うわ、もうこんな時間!?」
 うめは新宿にある調理の専門学校を出て、すぐ携帯を掛ける。足は駅へ向けて駆けたまま。
『はーい』
「あ、紫恋、今どこ?」
『今、品川』
「って早! あんたちゃんと大学行ったの!?」
『一応ねー、でも授業聞いても資格試験に使えないし。ほら、もうすぐ高士達も来るっていうから早く来なよ』
「はいはい、今行きますよ」
 溜息をついてから、駅ビルの屋上にある機花バス乗り場へと行き、品川駅へと向かう。
 品川駅、のその東側にある桟橋から、チューブ状のレールが東京湾へと伸びている。
 そのホームに、紫恋と高士、ウムリルが待っているのが見えた。
「ごめんごめん、遅くなっちゃって」
「うめさん、相変わらずなんだな」
「何よそれー。あ、あなたが……」
 そう声を掛けられて、ウムリルが丁寧に頭を下げる。
「初めまして、ウムリァルトナスと申します。ウムリルとお呼びください」
「初めまして、山田うめです。前に王子から話聞いてたよ」
「そうなのですか、シーバリウ様が……」
 と、ちょっと複雑な表情を見せる。
「?」
「うめ、かばんこれね」
 紫恋は電動キャタピラ付きのスーツケースをうめに渡して、話を逸らす。
 ……そういえば、彼女がお后になるとかってそんなこと言ってたよね……。
 紫恋は高士を手招きし、小声で話しかける。
「……ねぇ、ウムリルって王子のこと好きみたいだった?」
「……どうだろうな、そういう感じもあったけど、こっちに来たときにはもう決まってたんだろ?」
「そりゃそうだけど、そう割り切れるもんでもないし……ま、いっか、忘れて」
 と、高士の背中を叩き、高士はなんだよという顔をする。
『2番ホームに当駅止まりの電車が参ります。この電車は、折り返し東京湾HAC特区経由横須賀行きとなります。発車時刻は15時31分を予定しております』
 チューブの中を通ってリニアトレインが侵入してくる。到着し、チューブと列車のドアが開く。
 その列車にうめ、紫恋、高士、ウムリルが乗る。
 発車して15分後、リニアトレインはHAC特区へと到着する。
「うわぁ……」
 駅を出てすぐのテラスから見下ろす「穴」は、深く太い、底の見えない彼の地への連絡口だった。