エピローグ (2) [△ ▽]

「げ……」
 高士は、それを青ざめた顔で見上げていた。
 待逢神社の境内。
 ……だった場所には重機が入り、建築のための土台を埋め込んでいた。
「ここが、あの石人と戦った場所なのですか?」
 高士の脇に立つ少女が訊く。
 金色の長い髪、青い目。白いワンピースに身を包むその清楚な姿は、気品を感じさせるものだった。
「え? ああ、シーバリウに聞いたのか。あの時、ここは戦場みたいなもんだったからな……」
 あの時。
 シーバリウ達がこの世界に戻ってきてからも、ごたごたは耐えなかった。
 まず、石人が解放された時の衝撃波で、待逢の家を含めて周りの家屋が倒壊していた。
 幸運にも死者はいなかったが、怪我人多数、被害は広範囲に及んでいた。
 結局、待逢はここを手放し、普通の家に引っ越した。ちょうど紫恋がうめと都心に住み始めた時期だったこともあり、家が広すぎたところだと神主は言った。
 それは強がりだったのかもしれないが、少なくとも、父と母に、家を捨てたことの負い目はないように感じられた。
「でも、このあたりは魔法力の強い場所なのでしょう?」
 少女は手を伸ばし、何かを感じ取ろうとしながら高士に訊く。
「俺にはそのあたりのことは分かんないからな。HACに売ったって話だし、ちゃんと対処してくれるんだろ」
「高士様は、魔法は学ばないのですか?」
「……姉さんとは違うんだよ。さ、時間だ」
 高士は後ろを向き、少女もそれに付いていく。
「あ!」
 少女は長い長い石段の一番下に見知った顔を見つけて、駆け下りていった。
 人だかりは、老人達や同世代の子供、旅館山田屋の錦とはこね、それに。
「父さん、母さんも」
 神主こと待逢賢二とむらさきもそこにいた。
「見送りはいいと言いましたのに……」
「そうはいかないって。シーバリウ君もあれから音沙汰ないし、ウムリルちゃんはちゃんと手紙でも電話でもいいから連絡してね」
 はこねが少女、ウムリルの手を取る。とたんに、ウムリルの目に涙が溢れる。
「お前も気を付けるんだぞ」
「俺? 三日で帰ってくるんだから旅行みたいなもんだって」
「でもね高士ちゃん、一応渡航注意地域になってるんだから、何があるかわからないでしょ?」
「大丈夫です、我々コメネケ国が誠意を持って無事送り届けます」
 そう胸を張って、ウムリルは言った。