第12話 たったひとつの確かな理由 (15) [△ ▽]

「し……れん?」
 おそるおそる背後を見る。白い羽根を生やした紫恋が、うめを抱きかかえて、宙を周回した。
「大丈夫……!! うめ、何その右手!! 今王子に見てもらうか……???」
 うめの顔は、見る間に泣き崩れた。
「し……しれ……ううっ」
「何? そんなに痛いの!? こんなことなら治癒魔法で教えてもらうんだった……もうちょっと我慢してね」
「あ……ううん、大丈夫。なんかね」
 笑顔で、涙をぬぐって。
「紫恋って、優しいね」
「……」
 紫恋は、仰け反って。
 ゴンッ!
「うっ!!」
 ヘッドバットした。
「何ボケたこと言ってんのよー!! あ、あ、あんたねっ!」
 顔を真っ赤にして、紫恋はまくし立てた。
「あーもうっ、早く帰るよ!」
「う、うん」
「つっても……」
 と言いつつも、下には降りられる気配がなかった。石柱が乱雑に立つ円柱状の空間は、一方では黒い獣がひしめく中を赤いワースとシーバリウの閃く剣が掻き分け、もう一方では石人が羽根の生えた男に切り刻まれていた。
「何あれ、……あれも魔族?」
「あ……え、嘘」
 石人は、善戦すらしていなかった。あり得ない光景だった。
 サナツカという魔族は無数の羽根でジグザグに舞い、暴風とも例えられる石人の腕をいとも簡単に躱し、その躱しざま、爪の付いた腕を振り降ろせば、石人の腕は粉々に砕け散った。
「!!」
 紫恋は、表情の見えないうめのその驚き方に、溜息をついていた。
 まー、うめならあり得るよね、犯人と仲良くなっちゃうとか……。
「うめ、どうしたい?」
『ばっか、早く行けよ』
「え?」
 うめは、紫恋を、石人を、紫恋を、見る。
 うめの背中は、紫恋の温もりを感じずにはいられなかった。
 ごめん、私行くね……。
「紫恋…………帰ろ!」
「よし!」