第12話 たったひとつの確かな理由 (12) [△ ▽]

『こっち』
 十字路で、ジャージが指を指し、その指し示す方向へと走っていく。長い長い、赤く光る石廊を走り抜けていく。
「少し強くなりました」
「あ、この感じがそうなんだ」
 紫恋にも感じる、違和感。
 数分前から、ジャージのワースが微弱な魔力を計測していた。
 その流れを追って、走る。
『……これ、ちょっとヤバそう』
「ヤバいって何よ」
「この魔力は……血の臭いがします」
「血!? ってゆーか魔力に血とかあるの?」
「魔力というのは、具体的には借威対象の権限履行力のことです。そのため借威対象の気質に強く依存します」
『つまりケンカっ早いのが相手ってことよ』
「――――」
 紫恋は足を早め、シャツをまくし上げる。
「! 待って、紫恋さん! 一人で行っては駄目です!」
「んなこと言ったって、うめが!」
「……なら僕が先に行きます、皆さ――ッ」
 シーバリウは両手を広げ立ち止まる。
『え、何!?』
「止まって!! 右から――」
 二人に先行していたジャージが、後ろを付いてこないことに気付いてスピードダウンする。
『!?』
 右側面の石が突然スライドし、鈍い音と共にジャージのワースを弾き飛ばす。
「真美さん!!」
『大丈夫、って!?』
 ジャージは思わず後ずさる。通路側へと移動した石、その抜けた穴から、牙が現れる。
 鋭利な蛮刀の形状をした牙が二本、上顎から下へと突き出ている。猫科を思わせる扁平の顔、その瞳は赤く光。黒い毛並みの胴体は小型の乗用車ほどの大きさで、六つの足で悠然と通路へと侵入し、周りをゆっくりと見回した。
 立て続けに、何かが擦れる音。
「ちょ、王子後ろ!!」
『こっちも……』
 通路の至る所で石が動き、その奥から黒い獣が現れた。それは少しずつ、通路を埋めていった。
『アーツィガーナ』
 シーバリウは腰の剣に手を掛ける。
「紫恋さん、真美さん、強行突破します」
『OK』
「わかった」
 紫恋はツッコミたくて仕方なかったが、周囲の魔獣がそれをさせなかった。