第12話 たったひとつの確かな理由 (7) [△ ▽]

『わかった、脱ぐ! 脱ぐから助けろ!! 』
「これが天下のJCTHUとはねぇ……」
 イヴァンディは溜息をついて立ち上がる。指を上げ、背後に寝かされている神主を緑の布で覆い包む。
『あ、お前それ便利だな、俺包んでくれ!』
「……」
 あー、殺しちゃった方が楽そ……。
 ありったけの弾丸をぶち込み、石人がひるんだ隙に距離を取って、三人は立ち止まる。爆音と共にワースが割け、金属の液体と共に中から人が流れ出る。
「うわ、マジでやっちゃった」
「おい! 約束だぞ、なんとかしろよ!?」
 と、三峯が地面に倒れたまま指を指して命令する。ワースから出たばかりだからか、足腰も立たない状態だった。
「ふぅ……ま、お仕事だしね」
 それに、あの子達は嫌いじゃないし。
 イヴァンディが一歩進む。
 その瞬間、石人が振り向く。解体されたワースから警告音が漏れ聞こえ、それの異常さを訴えていた。
 異常なのは、イヴァンディ。
『さ、出ておいで』
 低い声がどこまでも響き、地面が音を立てて揺れる。石人すら、動きを止め、慎重に見守っていた。
 イヴァンディの体に巻かれた緑色の布、その両足、爪先が弾け、裂け目は脛を伝い股を疾る。その奥には、赤い闇。深淵なる無に、赤熱の岩石が見え、それは蒸気を上げて表面を成し、ひび割れた岩肌が皮膚となり、その表面積を急激に広げ、両腿から溢れ、イヴァンディの姿を高々と持ち上げた。
「…………」
 石人を超える、異常。
 それは四つ足の、両生類を思わせる姿をしている。カエルともトカゲとも取れるそれは、皮膚は赤黒く、鱗状に文様を流し、石人の三倍はあろうかという全高。頭部は扁平の頭頂部、突き出た両目は左右に分かれ、口は平たく長く突き出ていた。
 その後頭部に当たる位置に、イヴァンディの腰から上があった。
「じゃじゃーん! ビックリした?」
 誰に言っているのか、両手を上げて面白そうに言う。
 それを隙と見て取り、石人が跳ねる。イヴァンディのそれに比べればずっと小さいとはいえ、その動きは石人の巨体とは思えないものだった。
 地響きと共に、石人すら追えない速度でそれは跳ね上がり、硬い爪で薙いだ。粉々になった灰色の岩と黄土色の土が混ざって舞い上がり、石人の上半身が跳ね飛ぶ。
「お、結構やるかも」
 しかし石人は、地面に落ちる前に再び岩石を集め、下半身を取り返していた。