第11話 闇の背中 (22) [△ ▽]

『何を考えているんだ、こんな近くで魔法など!!』
 濃緑色のワースが近づき、皮膚が震えるほどの大声で怒鳴りつける。
「十分距離は取っていますし、封印されている間は影響し」
『邪魔だ、早くここから退去したまえ!』
 シーバリウの声を掻き消すように、怒声を畳み掛ける。
「…………」
 紫恋は拳を握り、歯を食いしばる。今すぐにでも殴り付けたかったが、その威圧的なワースの姿は、冷静さを取り戻させる程の恐怖を感じさせた。
『わかりましたから、ボリューム下げてください』
 ジャージがワースへと近付き、楯となる。
『すぐに退去するんだぞ。これから検査のため試験解放を行う。魔法の影響範囲外に』
「……なんですって……」
『?』
『え……』
 そのワースも、ジャージも、紫恋も、シーバリウを見た。
 シーバリウは、石人を見ていた。
 石人に取り付いていたワースは、あり得ないことを、しようとしていた。
 そして、した。
 ……こんなことになるなら、僕一人でやれば良かった……ッ!!
エン・ザーカリクタ善なる魔よ悪なる魔よ、
 シーバリウは両手を上げる。
 青い空、遙か上空に黒い輪が現れる。
ディオヴィヴァッツェン!!須く目覚め活きよ!!
 両腕を振り下ろすとその輪が瞬時に降下する。
『!? 貴様、何をした!』
『?』
『なんだ?』
 石人の周りにいたワースは、上空の異変に気付いて見上げる間もなく黒いリングに包まれる。それはそこにいたワースごと、幾重にも積み重なり、石人のシルエットを消した。
 輪に、ほころび。
「そ――」
『伏せてっ!!』
 ジャージの赤いワースが覆い被さる、その脇から、紫恋は、石人の側に立つ父を見た。
 呆然と見上げているその表情は、笑える程だった。
 それが、最期の姿だとしても。