第10話 HACの街 (3) [△ ▽]

「ここ、日本!?」
 その光景に、紫恋は目を見張った。
 オープンタイプの三層建築、その各階や地上には物と人が溢れかえり、喧噪が空間を埋め尽くしていた。
 HAC幕張特区駅の二階から目の前の10階建てのビルへとペデストリアンデッキが伸び、そのビルの3階までは左右へと際限なく続いている。その一部は透明な壁によって、それ以外は簡単な柵があるだけの、「外」へと直結した部屋が並び、立て看板やホログラフィの広告が並んでいた。さすがに外から直接上がる客は少ないのか、その部屋の奥から人が入ってくるのが、商品が並ぶその向こうから見えた。
「これはすごいです!!」
 シーバリウも、物見遊山のようにきょろきょろと首を回し、駅とビルを継なぐ橋から体を乗り出し、延々と続く「壁の剥がれた3階建ての長屋」を端から純に見ていった。それぞれの部屋からは駅側へとたどたどしい梯子のような橋やロープが張られ、そこを渡る人がいたり、商品と代金だけが渡っていたりしていた。
「ほえー」
 と、うめも口を開けて眺めていた。
「言っとくけど、ここを全部回るツアーっていうのがあって、それ一週間のコースだからね。さ、行くよ。本部はもっと奥にあるから」
「奥って、どのくらいあるんですか……」
 そう言っておきながら、うめは聞きたくなさそうだった。
 ビルの中を通過し、その向こう側に渡っても、同じように露店街が続いていた。
「……でも、これだけ雑多なのに、意外と綺麗な感じですね」
 建物が綺麗、というだけでなく、全体的に清潔感は失われていなかった。
「まぁ、日本には違いないからねぇ」
「それ偏見ですよ。それに市場とかだともっと違うと思うし、でもそういう感じでもないっていうか」
「結構管理は厳しいからね」
 ジャージが顎を向けると、天井に黒い半球が取り付けられていた。
「監視カメラですか」
「この特区は、日本の法律に縛られずにHACの技術成果を売買できるんだけど、でも普通の刑罰とかはこっちの方が厳しいから」
「そういえば、2年前の事故の時も……」
「下川特区はあれで完全撤退だからねぇ」
「あれすごかったよね、ニュースで何度もやったし……うわ」
 ビルを超え、地上に出ると、左右に立ち並ぶ3階建てのオープンな建物が空を囲み、さらに大量の客で溢れていた。
「うあー!」
 紫恋は叫んでいた。