第8話 アイとコイと (24) [△ ▽]

 漆黒の機花が闇夜から現れ、待逢神社の庭、石人のすぐ側へと降りてくる。
 それを見終える前に、紫恋は高士とむらさきを抱える。
「しっかり掴まってて!」
 その返事も聞かず、巨大な羽を羽ばたかせて紫恋が飛び立つ。
「うめもママさんも早く!」
「え……」
 うめが惚けている間に機花は地面の上約10センチにホバリングし、爆発するように開いたハッチから黒い物が無数に飛び出す。
 それは、ワースを着た兵だった。
「っ、ママ!?」
 宙に浮く感覚。はこねはうめを胸に抱きかかえ、待逢神社の階段を飛び降りる。遙か下にある地上があり得ない速さで近づいてくる。頬を叩き付ける風、その風を切る音の中に、異質な音が混じる。
 爆音と共に石段が、遙か下の地面が、川の水面が、周りの木々が弾ける。閃光、赤く焼けた石の飛沫が飛び散り、さながら花火の中を飛び降りているようだった。
「ッッッッッッッッ!!」
 声にならない悲鳴の中で、みるみるうちに地面が近付く。
「痛!!」
 体に鈍い痛み。はこねがうめを抱きしめる痛み。
 直後。
 はこねは地面に着地し、その勢いを止められず体は跳ねるように空を飛び、道路の向こう、川縁の砂利へと背中から落ち、うめを胸に抱えたまま川へと転がっていく。
 その姿が一瞬で消え、その消えた後を無数の弾丸が着弾し、水しぶきとともに火花の花が咲き、轟音と黒い煙が上る。それは1秒で止み、再び静けさを取り戻す。
『5人も逃すとは……』
『いや、今のは対人弾だったところに、何らかの魔法が掛かっていた。強化型APのようでもあったな』
 集団の後ろにいるふたりのワース。
『命令通りに動くことは確認できた。問題ない』
『追討部隊を出しますか?』
『いや、通報されてもJCTHUが出てくるまでには終わらせられる。調停委員会が出てくるのであればもう既に介入しているだろう。各部隊は監視体制に移り、作業を開始してくれ』
『分かりました。頼む』
 指示と共に二人のワースが横長長方形の機械を運び出す。それを石人の側に置き、ケーブルをワースに継なぐ。
 その長方形が尺取り虫のように延び、五角形状に石人を囲む。
『どのくらい掛かる?』
『少々お待ちください……出ました、20分以内には完了します』
『了解した』
 男はタイマーをセットし、カウントダウンを開始した。その表示のすぐ側に、魔法力のレーダーマップを表示させる。
『まさか、な』
 今はもう目立った変化のないそのレーダーを、常に目の端に捉えていた。