第6話 祭の夜に (23) [△ ▽]

「もう……王子、金魚すくい行こ!」
「え? あ、はい!」
 うめに手を引っ張られて立ち上がり、ふたりは金魚すくいへと向かう。
「あ、待ってよー……?」
 それを追う紫恋を、ジャージが止める。
「ねぇちょっと、なんで声掛けたのよ、すごくいい雰囲気だったのに」
「見てなかったの?」
「何が」
「……いい」
「よくないって、あれじゃうめが可哀想じゃない、なんで邪魔したの」
「いいって」
「よくないでしょ?」
いいのよ!!
 いきなりの怒鳴り声にうめとシーバリウも振り向く。
「え、あ……」
「あれはあれでいいのよ! 何わかったふうな口きいて、何もわかってないくせに!!」
「そ、そんな怒んないでよ……」
「うめ?」
「私だってわかんないのよ! なんであんなことしたのか、でも仕方ないじゃない! そんなに責めなくたって」
「紫恋さん!」
 シーバリウが紫恋とジャージの間に割って入る。
「! あんたが、あんたが!」
「え、うわっ」
 紫恋はシーバリウの襟首を掴み、振り回す動きが自分を振り回す動きになってしまう。
「ッ」
「え? え??」
 握られた襟首を中心にして二人はぐるぐるとまわり、シーバリウが足を踏ん張って体を止めようとするのもむなしく、
「あ」
 音を立てて金魚すくいのプールに倒れ込む。
あーっ!!
 店主が立ち上がり、うめとジャージはオロオロし、紫恋は呆然とした後、涙ぐむ。
「わ、わた……」
「紫恋さん、こっち! とりあえず家に連れて行きますから!」
 シーバリウは紫恋を立ち上がらせ、待逢の家へと連れて行く。
「あ、待って! 私……も……」
 行きたいのは山々だったが、怒れるおやじと、プールの外でぴちぴち跳ねる金魚を放っておくことはできそうもなかった。