第6話 祭の夜に (22) [△ ▽]

 なぜ僕は「はい」などと言ってしまったのだろう。
 なぜ僕はうめさんの頬に手を当てているのだろう。
 キスなんて、簡単にしていいことだった。
 でも、こちらの世界では違う。
 うめさんは、ただキスをしたいだけではなく、僕の決断を待っている。
 紫恋さんが言っていた。僕が本当にうめさんの事を好きなのか、それを決めなければならない、と。
 僕には、うめさんの人生を左右する重要な決断を迫られている。
 いや。
 そのようなことを考えるということこそ、答なのかもしれない。
 僕は、うめさんの事を好きだとは言えない。
 少なくとも、うめさんが求めるものと同じものは、僕は求めていない。
 この目の前で瞳を閉じ唇を待つ少女は、優しくて、かわいくて、守りたいと思い、応えたくなってしまう。
 でも、それだけだった。
 僕は、うめさんに何一つ望んでいない。
 僕は与えるだけで、与えてもらいたいものがひとつとしてない。
 ただ好きになるだけなら、付き合うだけならそれでいいのかもしれない。
 でも、人生を左右する理由にはならない。
 僕はもう、1ヶ月後には彼の地へと戻らなければならない。
 その時まで与え続けて、去る時に断るのか?
 それとも、連れて帰るのか?
 どちらも、答ではないような気がした。
 僕は何を求めている?
 僕は何がしたい?
 本当の目的を忘れてないか?
 僕がここにいる間は、うめさんと一緒にいることが、何よりも心地よい。
 でも、本当の自分は、うめさんを求めていない。
 ……もう一度、うめの顔を見る。
 うめさん、ごめんなさい。僕はきっと、ずっと、嘘をついていたんですね。
 紫恋さんに話したように、自分の弱いところをずっと隠していたんですね。
 うめさん、謝らせてください。
 紫恋さん、けじめはちゃんとつけます。僕は――――
 ――――シーバリウは、うめの頬から右手を離す。
 ぴく、と、うめの顔が反応する。
 シーバリウは、その両手をうめの両肩へと――――――――――――――――――――
「うめー、どこー?」
 びく! と二人は反応し、まわりを見る。
「あ、いたいた」
 屋台の裏から紫恋とジャージが出てくる。
「! ……」
「う……」
 うめは涙すら浮かべそうなほどのじと目で紫恋をにらみ、紫恋は苦笑いを浮かべて謝る。