第6話 祭の夜に (21) [△ ▽]

「…………本当にいいのかな……」
「静かに!」
 紫恋がジャージをまるで教師のように叱る。二人は木の陰で体を寄せ合い、シーバリウとうめを背中側から覗いていた。
「…………」
 ジャージは渋々了承する。だが、その顔は訝しげなまま。
 ……やっぱ、こういうのって良くないんじゃないかなぁ……あとでうめもシーバリウも怒りそう……。
 そんなことは露とも思わず、紫恋はただただうめとシーバリウを注視している。
「あ…」
 そのうめが、シーバリウに体を寄せ、目を閉じる。
「え……まさか、嘘……」
 まるで小学生のように頬を赤らめるジャージ。
「うめ……」
 紫恋は、ただ見守るだけ。
 シーバリウの行動を、待つだけ。
 王子は私の言ったことを忘れるような人間じゃない。一時の感情に流されるような人間でもない。悩んで、本当に悩んで、キスをするのか、それとも断るのか、どちらかを選択するはず。
 本当に自分がうめのことを好きなのか、その決断をして、その決断に則って行動するはず。
 私は信じている。王子が本当にうめのことを大切に思っている、と。
 王子は言った、私と同じなのだと。
 同じように、うめを心配しているのだと。
 だったら。
 私は、王子を信じる。王子の決断を認める。
 王子がキスをするのなら、王子は必ずうめを幸せにしてくれると。
 王子がキスを拒絶するなら、一時うめは悲しむとしても、不幸にすることはない、と。
 だから。
 どちらを選択しても、うめは絶対大丈夫だから。
 私は見守るだけなんだ、と。
 そう、紫恋は自分に言い聞かせる。
 だから。
「!!」
 その時、紫恋は、行動してしまった自分を、冷めた目で軽蔑した。