第6話 祭の夜に (10) [△ ▽]

 次の日の早朝、すでに屋台が立ち並ぶ境内で。
 紫恋はあごが外れるかと思うほど、あんぐりと口を開けていた。
「……そんなに驚くこと?」
 うめが尋ねる。その言葉に応えるように、うめにヘッドロックを極めて奥へと連れて行く。置いてきぼりになるシーバリウとジャージ。
「何バカ言ってるのよ!! 今日はあんたと王子、二人きりにしてあげるって言ってるのに!」
「え〜? みんなで回った方が絶対楽しいって〜」
「……何? 急に怖じ気づいた?」
「……怖じ気づいた」
 それを聞いて、紫恋は手を離す。
「なんでまた、急に」
「……なんとなく」
 なんかあったのね……。
「……わかった。理由は明日訊くから、今日は仲良くグループ交際ってことで」
「ありがと!」
 再び二人の方に戻りつつ。
 ん? 男ひとりに女3人、グループ交際じゃなくハーレム交際?
「じゃ、今日の5時にここに集合して、みんなで屋台を回ろーう!」
 手まで上げて、おーとかけ声を上げる、うめ。
「……いいのですか?」
 と、心配そうに尋ねるシーバリウ。
「いいったらいいの。ほらみんなも。おー!!」
 おー、と、力なさそうに3人は手を挙げる。
「じゃ、私寝る……5時にまたね」
 と、徹夜で手伝っていたジャージが立ち去る。
 その立ち去り際。
「……ねぇ、今日はうめとシーバリウの二人っきりって話じゃなかったの?」
「……うめがそうしたいって言うんだから仕方ないでしょ?」
 あきれてるのか怒っているのか、つっけんどんに紫恋は答えた。
 紫恋は、その理由を聞いていなかった。
 寝ているシーバリウにキスしようとして、失敗したことを。
「じゃ、5時にまたね!」
 駆けて立ち去るうめ、見送るシーバリウ。
 うめは、シーバリウを直視できないことを自覚していた。