第6話 祭の夜に (9) [△ ▽]

 夜遅く、旅館山田屋に静かに入っていく。
 家屋側ののれんをくぐり、居間に入ると、うめがダイニングテーブルで寝ていた。
「うめさん、待ってくれてたんだ……」
 うめの手元にはメモ帳。
『王子遅い!』
『なにやってんのよ!』
『ねむいー』
 そんな言葉と、うめの寝顔を見比べる。
 茶色がかったクセのある髪の奥に、うめの寝顔。普段の快活な表情はそこにはなく、一人の乙女がそこにいた。
「うめさん、ただいま」
 頬を撫で、髪を上げながら、うめを起こす。
「………………………………王子? 帰ったの?」
「はい。遅れて申し訳ありません。うめさんも部屋で寝た方がいいですよ」
「うー……じゃあお姫様だっこで連れてって」
「はい」
「! うそうそ冗談!」
 がたと立ち上がって顔を赤らめる。立ちくらみのように頭を振って。
「……なんか混乱する……夢?」
「夢じゃありませんよ」
「……じゃあ寝る」
 と、つたない歩みで自分の部屋へと向かう。
 その寝ぼけ眼は、普段の笑顔とは違う、うめの弛んだ部分。
 そんな頼りない姿を見て、シーバリウは思う。
 かわいい、と。
 でもそれは。
 娘や妹を見るような「かわいい」に近いような気がする。
「じゃ、おやすみ王子」
「はい、おやすみなさい」
「明日はみんなで楽しもーね」
 そう、明日、うめさんとのデートで決めなければならない。
 明日のデート、で……?
 「みんな」?