第6話 祭の夜に (8) [△ ▽]

 缶をゴミ箱に捨てて。
「あんたももう帰んなさい」
「そうですね、うめさんが心配してるかもしれません」
「忘れてもう寝ちゃってるかもしれないけど」
「あはははは、確かにそれもあるかもしれませんね」
「王子」
 と、紫恋は急に真面目な顔になる。
「私はやっぱり、王子が本当にうめのこと好きなようには見えない」
「……」
「でも、心なんて簡単に変わるものだと思うし、何より、うめはあんたのこと好きなんだから……明日一日、二人きりでデートして、結果出しなさい」
「結果……」
「別に既成事実までは求めてないわよ。顔赤いわよ〜?」
「!!」
 シーバリウは咄嗟に顔を隠す。
「ウソよ。そういう結果もそうだけど、それよりは、あんたの気持ち。明日、あんた自身が確かめてみなさい。それで」
 紫恋が睨む。王子はその瞳に飲み込まれる。
「もし自分がうめのことを本当に好きじゃないと気付いたのなら、自分から手を引きなさい」
「……」
「うめが両想いと信じたまま生き別れになったら、あの子、ずっと引きずってく。それだけは避けたいから。うめがずっとあんたのこと思ってて、あんたは国に戻って結婚したりしたら、どう思うか……わかるわよね」
「はい」
「ならよし。じゃ、おやすみ」
 くるりときびすを返して、紫恋は立ち去ろうとする。
「あ、うめに言い訳するときには、あたしとお笑いの練習してたって言いなさいよ。フォローのメール入れとくから」
 シーバリウはその背を黙って見送る。明かりの少ない本殿の裏は、すぐに紫恋の姿を隠した。
 誰もいなくなってから、シーバリウは、自分の手を見る。
 僕は、本当にうめさんのことを好きなのだろうか。
 正直な所、分からない。
 そして、それ以上に。
 もうすぐ去らなければならない僕が、うめさんの人生を左右するということの、重み。
「明日……」
 うめさんとの、二人きりのデート。
 その中で、結論は出るのだろうか。
 自分の気持ちは、固まるのだろうか。