第4話 機械の魔法、機械の天使 (20) [△ ▽]

「それにしても……これはすごいです。確かに純粋魔法は無生物にも唱えられますが、こういった機械で自動化できるなんて……」
「自動化ってほどでもないけどね。たとえば……」
 ファイルブラウザから1ファイルを開く。その魔法には、呪文の中に「${KION}」と書かれていた。
「気温?」
「本来、純粋魔法って環境に大きく左右されるでしょ」
「はい、先ほどの僕の魔法も、この環境に合わせて微妙に変えてありますから。……これはその、気温の変化に対応するためのものですか?」
「そのための関数なんだけど……」
 「${KION}」をダブルクリックすると新たにウィンドウが開き、数式が表示される。
「う”、これは苦手そうですね……」
「こっちはどう?」
 少し隠れた形になっていた下ペインを拡大する。そこには「声」の魔法が分解されて記述されていた。
「あ、こちらは少し解ります」
「つまり気温によって魔法を変えようっていう仕組みなんだけど、ここまでくると正直お手上げね……比較的環境に左右されない魔法ってことで、借威魔法を使えるようにする純粋魔法を選んでるんだけど」
「なるほど、そういう理由だったんですね」
「それもあるし、その方がバリエーション多いかと思ったんだけど……今使えるのだと、借威魔法のバリエーションが多くない……なんだろう、神様かな、精霊なのかな、そういうのばっかだから」
「確かに、使える借威魔法は借威対象に依存しますからねぇ……」
「だね……シーバリウ、コーヒー飲む?」
「あ、はい、お願いします」
 と言っている間もシーバリウはモニターを見続けている。早くもファイルブラウザのプレビュー機能をマスターして、各ファイルの魔法をチェックしていた。
 そんなシーバリウを目で追いながら、キッチンへと向かう。
 ……今のシーバリウは、おもちゃに夢中になる子供と、仕事に向かっている大人の中間ってところかな……。
 そう、私のシーバリウ観ってこっちが大きいんだよね……うめが言うような、明るくて脳天気っていうのとはちょっと違うというか……。
 『僕は、大丈夫ですから』
 あの時の、壊れそうな笑顔。
 もしかしたら、いつもの笑顔も、気付いていないだけで、ガラス細工のような脆さを持っているのかもしれない……。
 コーヒーカップをふたつ持ってきたとき、シーバリウはモニターを見ながら、魔法を唱えるように手を動かしていた。
「? どしたのシーバリウ」
「……もしかしたら、うまくいくかもしれません」