エピローグ (5) [△ ▽]

「……それでは、こことここから攻め入られたとします。まず、防衛線はどこに引きますか?」
「……こうかな、この数ならここを守り通せれば何とかなるから」
 体を傾けると、白い湯気が立ち上る。
 大理石で作られた、プールのような広さの風呂場に、シーバリウと真美の声が響く。
 つつ、と真美の白い指が磨き上げられた白い床面をなぞる。すでにシーバリウが描いていた、要所や軍勢を示す図の中に、防衛線を描き入れる。
 二人は、湯船に浸かったまま。シーバリウが下になるように体を重ね、縁に体を預けるようにして、即席の白板を使って戦略プランを問答していた。
「ここの軍勢ってシャナークを想定してる?」
 後ろにあるシーバリウの顔を見る。すぐ近く、湯に暖められた熱い吐息が直接掛かる距離。そのシーバリウの横顔を見つめる瞳は、銀色に瞬いている。
「シャナークだけではありません。この地方にはトルナクやアンプトディトなどの、――」
 シーバリウが、真美の吐息を感じて振り向く。上気して赤らんだ頬、潤う唇、その下に見える二房の――。
「む」
 真美は「何か」を感じて、こつんとシーバリウのおでこを弾く。
「あいた」
「反応しすぎ。ちょっと頭冷やしなさい」
 さらに顔を赤らめながら、自分の頭を冷やすために真美が湯船から出る。
 すぐさま湯気の中から女官が現れ、真美の体を洗っていく。真美も腕を上げ、洗うに任せる。
 ……慣れって怖い。
「真美」
「? ……えーっと、我慢できないなら人払い……する?」
 顔を赤らめながら訊き返す。
「あ、いえ、その話は置いておいて……でも、人払いはお願いします」
 と、シーバリウは周りの女官達に言う。数人いた女官の一人だけが残り、代わりに真美の肌を流す。
「ありがと、ルタリア。……じゃあ、人が聞かないように見張っておいてね」
「はい、了解しました」
 そう答えてルタリアは湯気の中に消え、真美は再び湯船に入る。
「大丈夫?」
「どういう意味でです?」
「色々と。……明日の話?」
 シーバリウはうなずく。
「明日は隣国の王達も来る予定です。その際に……」
「うん、最近だいぶコントロールできてるから大丈夫だと思う」
 水面を見れば、自分の瞳が刷り込まれる。水面を通してみると、銀色ではない、黒く、墜ちてしまいそうな瞳が見え隠れする。
「効果は弱めだけど、でも強力な奴ぶち込むから」
「ありがとうございま……」
 その謝罪の言葉を、唇を重ねて遮る。
「……謝っちゃ駄目だって言ったでしょ? 私は、今あなたといるだけで、幸せなんだから……」