第12話 たったひとつの確かな理由 (19) [△ ▽]

「右、右、後ろ!!」
 紫恋の声に、訊き返すことなくうめが跳ねる。
『⊃嚮廼庵◆――』
 その背後では、ジャージの魔法が続けられている。手に持つステッキが空中に描かれた魔法陣を追っている。
「そこ、近づくな!!」
 ワースの周りを駆け、近寄る獣を蹴り、それすらを弾として用い、他の獣を近づけさせない。
「右、反対側!!」
 紫恋は上空から観察し、優先順位を決定して、指示を出す。うめは迷うことなくその言葉に従い、ただひたすら獣を叩き続けた。
「左……あんたは左手で飯食うんかっ、左やゆーとるやろがッ!!」
 頭に青筋立てて怒鳴り続けた。
『完成!』
「!!」
 うめと紫恋の顔が明るくなる。
『試してみる、魔物が固まっているところってどこ?』
「すぐ右、そっち石柱なくていっぱいいる!」
『おけ!』
 ジャージはその方向へと向き、ステッキを持ち上げる。
『エルメティアナス散布!』
 魔法を唱える方向へと気体を散布し、
フィーアグナリドカーツ!光の繭は闇に充ちて
 瞬間、杖の軌跡を追って閃光の帯が現れ、それは幾重にも立ち上り魔獣を両断する。傷を負った数十の獣が雄叫びを上げて消えていく。
「なに!?」
「真美さん!!」
 シーバリウは飛び、ジャージの側に降りる。
『準備できたよ!』
「じゃあ、いいですか」
 そこで、シーバリウは、言葉を切った。視線は、ワースの奥にいるジャージへと向けられている。
「――僕の動きに合わせて、躊躇なく攻撃してください」
 その目は、決して逸れることなく、強く訴えていた。
 僕を、信じてください。
「――わかった」
 ワースがステッキを持ち上げると同時に、シーバリウはサナツカへと走っていった。