第12話 たったひとつの確かな理由 (9) [△ ▽]

『でねー、その馬鹿私の事フったんだよ!?』
「…………」
 赤い石が並ぶ迷宮の奥。
 広大な空間、天井が見えない円柱状の広場に、その天を目指すように石柱が立てられている。それらは天にはまったく届く気配がなく、中途半端な高さで地面から積まれてきた石を途絶えさせていた。
 その石柱のひとつ、中央に立つ石柱の一番上で、うめは足をがに股にして座っていた。
『私は足折っちゃうし治療は大変だしで苦労したのにさー、なんか冷たくなったっていうか、紫恋となんか仲いい感じだったし……そうそう、紫恋って言ってね』
「うるさい、黙れ」
『えー?』
 「声」は、うめの声で「うるさい、黙れ」のみ。
「頭の中でわめくな、気が散る」
『いいじゃない、なんだか久しぶりにハイなんだもん、ちょっとは語らせてよ』
「あのなぁ、今の状況が分かっているのか?」
『んー、王子が来るの待ってる所』
「…………」
 うめはすっくと立ち上がり、石柱の端へと立つ。
『え? ……何、何やってんの? 危ないよ?』
「えい」
 と、一歩、虚空へと踏みだし。
『きゃーっ!!!!?』
 もちろん、踏み外して、うめの体は石柱のてっぺんからこぼれ落ち、真っ逆さまになって。
『!!!!!!!????――――ッ!!』
 空を切って頭から地面に激突する。硬い物同士がぶつかり合い、うめの体は地面を低く跳ねて転がっていく。
『痛たたたたたた!』
「痛がりすぎだ」
『痛いのは痛いんだもん!! まだ痛覚のコントロールっていうのできないし!! あーいっつー……』
 何度も頭をさすり、その手を見ては、出血していないことを確認するが、何となく傷ができているような錯覚を憶える。
「少しは静かにしろ、次は頸動脈切るぞ?」
『…………』