第11話 闇の背中 (26) [△ ▽]

『巻き添え食らっちゃう、みんな掴まって!』
 ジャージが手を広げる。
「駄目、まだうめが!!」
 うめは少し遠くから、石人とワース2人の戦いを観戦していた。その口元には、笑み。
 うめが紫恋を見る。その笑みに、紫恋は背筋が凍る。それは、うめの顔では、なかった。
 だからこそ。
「うめ! うめ、何やってるの!!」
 その声が聞こえているのかいないのか、まったく意に介すことなく両腕を上げる。
「私を主に」
 石人が地面を叩きワースがそれを必死に躱した瞬間、石人の背から、赤い玉が現れた。
 それはうめの元へと飛来し、その額にはまる。
「う、うめ……」
 うめは手を下ろし、その背後に、黒い楕円が生まれる。
『! 待っ』
 止める間もなく、紫恋は走り出した。
「危険です!! 紫恋さん、戻って!」
 だが、紫恋にはその声も、周りの戦火も、届いていなかった。
 うめが、紫恋を一瞥し、背を向ける。
 ただ。
 ただ、目の前のうめが、うめの背中が消えていく、それだけを追って、もつれそうになる足で、ただひたすら、ひたすらに。
 でもそれは、はなから届くはずのない距離。二、三歩追ったときにはすでに、うめの姿は閉じつつある黒い円の向こうに消え、
「うめぇ!!」
 その声を無視して、黒い円は、閉じた。
「っ……」
 紫恋は足をもつれさせ、崩れ落ちる。
「え」
 その体を、緑色の帯が支えた。
 そして、目の前を二条の帯が横切り、それは何もない空間へと突き刺さった。万力が如き力によって、緑の帯が黒い円をこじ開ける。
「うっ!?」
 紫恋の体が浮く。体を縛る帯が引き上げ、そして、円の中へと引き込んだ。
『な』
「っ!」
 その帯はシーバリウとジャージを巻き上げる。そして、緑の塊と共に、黒い円へと入っていった。
『なんだ、何が起こった!?』
『知るか! それより応援はまだかよ!』
 円は再び閉じ、石人と戦う2人のワースだけが、残された。


 続く。