第11話 闇の背中 (23) [△ ▽]

 石人を包み込んでいた黒い無数の輪が、絶ち切られ、開く。
 石人を覆い隠していた黒い膜、その面に取り付けられていた機材が、おもちゃのように跳ね飛び、中から白い世界が覗いた瞬間。
 音が消えた。
 あらゆる音が高音域に跳ね上がりホワイトアウトさせる。
 周囲から色が逃げ、黒と白に塗り潰される。
 地面を、空を、紅い稲妻が駆け抜ける。それは大地を裂き、人を刻み、ワースを砕き、家屋を破壊し、木々を薙ぎ払った。
 その一辺が、ジャージのワースを叩いた。音は立たず、ただ。
『ッ!!』
 ジャージのうめき声だけが聞こえた。
「! 真美さん!」
 手をかざすそのシーバリウの温かい手を、ジャージはワースの手で握り返す。
『……冷静になりなさいって言ったでしょ……』
「……」
 シーバリウは無言でうなずく。
 黒い何かは、一瞬で過ぎ去った。
 それでも、ジャージはまだ覆い被さったまま。
『もう少し、じっとしていて……』
 ジャージは後方モニターで、それを、見た。
 そこには。
『……』
 石人が、いた。
 立方体状の白い石が、人の姿と見て取れる形を成している。周りを紅い閃光が疾り、閃光が側の機材やワースに当たる度にそれを跳ね飛ばす。その中で、ゆっくりと石の体を起こす。腕の先や頭部は砕けていたが、そこに瓦礫が集まっていき、再生しつつあった。
「あ……あ……!!」
 紫恋は、口元を押さえ、嗚咽した。涙が、人の姿をしていない父の姿を、隠した。
『目標確認! 磯川・木立、弾丸を高硬度徹甲弾に変更後目標をフルバーストで攻撃! 足止めするんだ!』
『は、はい!!』
 石人の周りにいる、ダメージを免れたワース3人がリングガンを構える。音もなく放たれる弾丸は、けたたましい音を立てて石人に着弾する。石人の前面、長方形の石面が土砂降りにさらされた地面のように細かな砂利を跳ね上げ、石人はよろめくように後ろへと下がる。
『機花はどうか!』
『駄目です、3番4番6番エアレール破損!』
『ち、中島と根岸は機体から降りて攻撃に参加! 機体を楯にして弱点を攻撃しろ!』
 煙を上げている機花からワース2体が現れ、機体の上へと飛び上がる。巨大なリングガンを構えてから、止まった。
『弱点……ってなんです!?』