第11話 闇の背中 (20) [△ ▽]

『杖を開始位置へ……』
 ジャージは手を挙げる。その手には、金属の杖。杖の先には、稀法石。
『フレイムガイドオン!』
 軌跡が、一際強くなる。ホログラムはただの映像を超え、まるで火花が疾っているかのように線をなぞっていった。
 ワースが、深呼吸をして。
 ステッキの先が、『#鴬鵬宀々』火花を追って『|旗幣口潔◆』軌跡を描く『潛皓↓⊆庄』【ゴナツ神の威を借り風を起こす力を貸し与え給え】
「!!」
 紫恋は思わず吹き出しそうになる。
 赤い、女性の体を想像させるスレンダーなワースが、ダンスを踊るように杖を振る。
 まっ、魔法少女……!!
『ッ』
 杖の先が軌跡を描き切ると、ジャージの息を飲む声が聞こえた。
『できた。どう?』
「大丈夫だと思います。試してみてください」
 シーバリウは手頃な板切れを取り、自分とジャージの間に立てる。
「あれ? もう終わったの……?」
 それは、あっけにとられると言うより、自分への失望。
「いえ、これから魔法を掛けるんです。これまでは魔法をを掛けるための魔法なんです」
「???」
 紫恋には、意味が分からなかった。
『エルメティアナス散布』
 ワースの両腰に取り付けられた散布機が開き、透明な気体を吹き出す。
「!」
 紫恋は一歩下がる。
「何、これ」
「エルメティアナスという、魔法の感度を上げる気体です」
「どうりで……」
 おそるおそる紫恋は手を伸ばす。その気体が散布されているであろう範囲に手を入れると、冷たさとも熱さとも形容し難い何かを感じた。
『いくよ』
「はい、失敗を恐れずに」
 シーバリウは両手を左右に広げ、それを確認してから、ジャージが杖を振り上げる。
フィルツォ!
 杖を木片へ向けて振り降ろすと、
「きゃっ」
「!」
 地面を這うように風がはためき、木片を吹き飛ばした。