第11話 闇の背中 (16) [△ ▽]

『……確かに、二股掛けたのはこちらの落ち度かもね。ちょっと焦ってたから許して』
「いえ、キャンセルになるだけですから」
『なら、ちょっとお願いがあるんだけど』
 ジャージがイヴァンディに近づく。
『あなたの私見でいいんだけど、どう、それ』
「んー、そうですねぇ」
 イヴァンディは眼前の石人を見つめる。それは巨大な人型をかたどり、表面は漆黒の闇で覆われている。
「10万」
「え?」
『おけ』
「え”!?」
「ドル」
『えええっ!?』
 ……沈黙。
「冗談ですよ。ここにHACの人間として来ている以上、そういったことはできませんから。違反行為にもなりますし」
『そうなんだ……ごめんなさい、気を悪くしないでください』
「あと、これは独り言なんですけど」
 と、手を後ろに組んでジャージへと向き直る。
「実は……あ、もう来ちゃったみたいですね、残念♪」
 と言った瞬間、緑布は瞬時に解け、その先端が地面に刺さり、音を立てて全ての布が地中に飲み込まれる。
 後には、人の姿すら残らなかった。
『……』
「……ッ!?」
 シーバリウは上を見上げ、ジャージもそれを追う。
 青空に、米粒ほどの、黒点
 ジャージが着るワースに警告音が鳴り響き、同時に五体が落下する。ふたりを囲むようにして、濃緑色のワースが5人、地面を砕いて着地した。
 手にはリングガン。その銃口は2人に向けられ、ジャージは立ちつくし、シーバリウは身構えていた。
『……JCTHUの方ですよね。依頼者の外内真美ですが……』
 全員がリングガンを下ろし、その内の一人が近づく。フェイスプレートが開き、中から十代と言っても通りそうな若い青年の顔が現れた。
『申し訳ありませんでした。JCTHU三課第四部隊の三峯です。今、HACの反応があったのですが』
『いえ、いませんけど』
 こういう時、表情が見られないっていうのは便利ね……。