第11話 闇の背中 (12) [△ ▽]

「……………………」
 紫恋は、絶句した。
 それは。
「お母さん……」
「そう見えるでしょ」
「!!」
 その声音は、母のものだった。
「声もそう聞こえるでしょ。これが私の眼の力」
「はー…………これ、お母さん見たらびっくりするだろうなー」
「何言ってるの、むらさきさんが見たら、あんたのおばあちゃんの顔に見えるんだから」
「あ、そか」
 そんなことすら気付かないほど、気が動転していた。
「そりゃ、気にならない人もいるだろうけど、たいがいの人は反射的に拒否反応示すから、これが必要なわけ」
 ジャージはゴーグルを取り出し、掛ける。
「どう?」
 声は、いつものジャージのものに戻っていた。
「……はい、いつも通りです」
「よかった」
 ジャージは再び椅子に座り直して、紫恋が煎れてくれたコーヒーをすする。
「おいし。紫恋も座ってよ、落ち着かないから」
「あ、はい」
 言われるままに、紫恋も座る。何気なく両手で包んだ、コーヒーの入った紙コップが、暖かくて、現実の拠り所に感じられた。
「確かにそれは、人に見せられませんね……」
 何度も見せるよう言っていた自分が恥ずかしい。確かにこれは、人に見せられるものではなかった。
「何かしら特徴があればいいんだけど、これはむしろ私を私じゃなくしちゃうものだから、どうしようもなくてね」
「ですね……」
「あ、気にしなくていいから。それに、見せたことで訊けることもあるし」
「え?」
「紫恋の能力って、私のこの眼に似てるのかなって思ったんだけど」
「あ」
 シーバリウを虜にした、眼の力。