第11話 闇の背中 (11) [△ ▽]

『ワースの表情表示機能って、装着者の顔面をトレースしてそのまま出力するから、当然といえば当然、出ちゃうよね……』
 ジャージと紫恋は、石人近くに設置された休憩所でひと休みする。
「中ではゴーグル着けられないし」
『だよねー、あー抜かったなー……』
 紫恋は紙コップに入ったコーヒーをすする。
「でも、なんで隠していたんですか?」
 てっきり、傷跡やそういった類のものがあるのだと思った。
 だが。
「……顔、悪い方じゃないと思いますけど」
『まぁ、これは作られたものだからね』
「整形? あ、違うか……デザイナーズチャイルドでしたっけ」
『そうそれ。じゃあ、こっちも知ってるんじゃないかな、外内、っていう名前』
「はい」
 聞いた、名前だった。
『私は外内事件の時の、あの中の一人なの。この顔は作られたものだから、綺麗なのは当然』
「でも、それじゃなんで隠していたんです? テレビに映ってはいなかったと思いますけど」
『私はAPでもあるのよ。この顔には魔法が掛けられていて、見た人を幻惑する力があるの』
「幻惑?」
『見た人は、私の顔が母親の顔のように見える、そういう魔法』
「え……」
 想像できなかった。
「それって、ジャージさんの顔が、お母さんの顔になるってことですか?」
 ジャージの形から上を、むらさきの顔に置き換えてみる。
「どんな感じなんだろう、いまいちわからないんですけど」
 と、紫恋は爛々とした瞳でジャージを見つめる。
「ねぇ、コーヒー飲みません?」
 紫恋は小さなケトルと紙コップ手に持って見せる。
「ねぇ」
『……後悔しても知らないわよ。5分くらい掛かるからちょっと待ってて』
 そういうと、ワースの中から作動音が聞こえてくる。ジャージの着る赤いワースは、表面が滑らかな、一昔前の戦隊もののような格好だったが、中から聞こえる音は、機械のものに近い作動音だった。
 4分経つと、顔に映し出されていたジャージの表情が消え、作動音と共に背部が開く。
「うわ」
 ぺりぺりという、乾いた何かを剥がす音と共に、まるでサナギからチョウが生まれる過程のように、割れた背中から、母親が出てきた。