第11話 闇の背中 (10) [△ ▽]

 夜中。
 テレビも見終わって、そろそろ寝るかという深夜、待逢家の台所で紫恋は物音を聞いてしまう。
「……あー、また……」
 音は外から聞こえていた。かすかな、何かが動く音。
 石人が現れた時は、夜中に見物人が来てることがあった。
 なんかよくわかんないのに襲われた時には、壊された社殿がさらに崩れる音だったこともあった。
 まぁ、どっちにしろほっときゃいいか。
「……」
 あ。
 HACから借りた測定器。
 石人を囲むように設置しておいたあの機械、動かされたり壊されたりしたら困るかも……。
「ったく、警備員とか呼んでくれればいいのに……」
 玄関をゆっくり開けて、覗く。
 外は暗闇。壊されていないいくつかの電灯が遠くに点っているだけで、とても石人の周りには届いていない。
 その石人の周りで、何かが動いていた。
「……」
 明かりも点けないで作業するわけないし、しゃーない……。
 玄関から出て、ゆっくりと近づいていく。
 シャツ一枚だし、羽根はすぐ出せるよね……あ、ノーブラだ……ま、いっか。
 と、数歩近づいたとき。
『紫恋?』
 と、聞き慣れた、少しくぐもった声が聞こえた。
「え、ジャージさん?」
 石人の近くにいた影が紫恋へと近付き、その顔にジャージの表情が映像化される。
『ごめん、驚かせちゃったね。寝てるだろうから明かり点けない方がいいかと思ったんだけど』
 近づいてくれば、その姿がおぼろげだが見て取れる。真っ赤な姿はいつもと同じだが、それは小豆ジャージではなく、赤いワースだった。
『これ着てると暗闇でも見えるし、まだ作業残ってたから』
「一言、言って欲しかったです」
『言ったんだけどね、神主さんには』
「あー」
 お父さん、帰ったらごはん食べてすぐ寝ちゃったから……。
「それならいいんです、すみません。ところで……」
『?』
「ジャージさんの素顔って、そんなだったんですね」