第9話 君がそこにいるから (23) [△ ▽]

『まだか……』
 石人の側。
 デルタ01は、魔法力のパラメーターを見ていた。装甲多脚の装甲は依然魔法力に守られており、それはまだ中の人間が生きていることを示していた。
 たった一人の魔法使いによって戦況が覆される。それだけは避けたかった。
クロフネ、再度砲撃せよ。チャーリー01、どうだ』
 石人の側に立つワース。石人のまわりには、スペアのSHP-1344cが五角形に囲んでいる。
『あと10分ほどです』
『そうか、間に合いそうだな』
 手を腰に当てる。出血は止まっており、痛みもない。だが、生体パラメーターは徐々に死へと向かっていた。それでも。
『10分はもつだろう。もうイレギュラーな事態は起きないで欲しいものだな』
「さてそれはどうかしら」
『!?』
 外部に音声は漏れていないはずだった。
 なのに。
 闇夜に立つ女は、その声を、確かに聞いていた。
『……いやに遅かったな、調停委員会』
 そこに立つ女性は、黒のスーツに身を固めている。両の袖には白い螺旋が描かれている。青い瞳、金色の髪、その髪をまとめる巨大なバレッタには稀法石が埋め込まれている。
 右手に持つ剣を抜き放つと、ワースがリングガンを向ける。
「調停委員会のフィオ・アッツェです。ってゆーかアーアアッツェです。名前くらい知ってるでしょ。言っとくけど、私今何日も寝てなくてすっごく気が立ってるの。だから下手したら手加減できないかも。ワース着ててもすっごく痛いから覚悟しておいて」
クロフネ
 上空の機花が砲撃の対象を変更、プラズマの弾丸を撃つ。
「ったく」
 と言えるだけの余裕を持って、剣を振り、弾丸を切り払う。フィオの周りに火花が咲き乱れ、それが自らの体を焼いても全く意に介さない。
『……』
「あきらめなさい」
 すたすたと歩いて、誰も邪魔しない中、フィオはSHP-1344cに剣を突き立て、破壊する。
「私達のポリシー、知ってるわよね」
『不殺の誓い、か』
「今もうひとりのメンバーが死んじゃったあんたの仲間を起こすから、そいつら連れて帰りなさい。大丈夫、帰ってからの処遇はちゃんとフォローしてあるから」
『手厚いんだな』
「そう言ってくれると嬉しいわ」
 音もなく近付き、デルタ01を数刺しする。
『!?』
「私達のポリシーは、命令であり、強制なの。自害させてあげないけど、それでも感謝してくれるならうれしいわ」
『……』
 デルタ01は前のめりに倒れこむ。
「おーい、あんたの出番よ、も少し真面目に働きなさい!!」