第9話 君がそこにいるから (22) [△ ▽]

「シーバリウ……?」
「嫌です! 僕はジャージさんを失いたくなんてないんです!!」
 泣いているのか、それとも血が流れているのか、そんなことは分からない。
 それでも、ジャージは手を伸ばして、シーバリウの頬を撫でた。
 シーバリウも、ジャージの頬を撫でようとする。
「あ……うん、暗闇なら見えないからいっか」
 ジャージは、ゴーグルを外す。
「ジャージ、さん?」
「見えてないよね」
「……はい。でも」
 シーバリウの手が、ジャージの頬を撫でる。
「ジャージさんの顔は、優しい顔をしているように感じます」
外内真美とうちまなみ
「とうち……?」
「私の名前。この名前、他の人に言っちゃ駄目だからね、実は有名人だから」
「有名人なんですか……でも僕は知りません。僕にとってはジャージ……いえ」
 シーバリウは、笑んで、言う。
「真美は、真美です」
「シーバリウ……」
 ジャージも笑みを返して。
「私、多分きっと、あなたのことが」
 振動。
「!!」
「ッ!!」
 再度の砲撃。
「あっ……ギャアアアアア!」
「――――」
 目の前で。
 シーバリウの目の前で、
 赤い雨が降り注ぎ。
 ジャージの背中に降り注ぎ。
「あ、あ、あ!!」
 焼け焦げる臭い、肉の焼ける臭い、死をもたらす臭い!!
『イルフ・リツ・バ・アル』
 その口を、何かが塞いだ。
「え……」
「う、うるさ、うるさい……」
 声にならない声が、機能していない肺から、かろうじて吹き出る。
「呪文、唱えちゃ、だめ、魔法力、が」
「でも、でも!」
「落ち着きなさい、シーバリウ!!」
 ジャージは力強く、言い聞かせた。
「……」
 シーバリウは、魔法を唱えるのを止める。伸ばした手に、ジャージも手を絡める。
 その絡めた手で、ジャージは、中指を、とん、とん、とん、とん、とん、と、一秒毎に叩いた。