第9話 君がそこにいるから (19) [△ ▽]

「ふぅ、ありがとう」
 と、体をくるくる回しながら、ジャージは言う。空中遊泳のように体が浮いていた。
「間に合って良かったです。ですが……」
 装甲多脚は、完全に沈黙していた。
「とりあえず通路まで来て。ここが一番装甲が厚いから」
「はい」
 ガナーシートとパイロットシートの間の通路。その狭い通路の中に、ふたりが体を寄せる。
 その直後。
「!!」
「ッッ!」
 装甲多脚が強く揺れる。爆音が響き、上下の室内に火花が飛び散る。
「シーバリウ、頭見て!」
「え、あ、はい!」
 ジャージのイメージがシーバリウに流れる。装甲多脚の構造、外装の中に含まれている稀法石の性質と含量、抗魔法力の性質が頭に入る。
『ツィアガウィナ!』
 シーバリウが手を広げると、装甲多脚の揺れの性質が変わる。音が隠り、室内に火花が飛び散らなくなる。
「どのくらい保つ?」
「外からの攻撃に左右されます。正直、1分もたないと思います」
「残り時間は……」
 調停委員会が来るという時間まで、残り3:19。
「まだ結構ありますね」
「……止んだ」
「いえ、聞こえます」
 豪雨のような着弾音が消え、くぐもった音に変わる。
「撃たれてはいるみたいですけど……外の状況は分かりませんか」
「駄目、センサー類は全部壊れてる。ここでずっと待ってるしかないかも」
「ですね……ッ」
 地鳴りと共に装甲多脚が縦に揺れ、そして逆さまになり、さらに回転する。空気に包まれたふたりがパイロットシートとガナーシートの間を跳ねる。
「な、何?」
「転がってます! 地面を」
 装甲多脚の足下がリングガンによって破砕、傾斜を転がり落ちていた。
「うっ、あっ」
「ジャージさん!」
 シーバリウがジャージを抱き寄せ胸に抱える。ふたつがひとつの風船となって、室内を跳ね回る。明かりが消え、完全な暗闇の中を、何が起きているのか理解できずに、ただ揺られる。
 側面から木に当たり、ようやく、装甲多脚は止まった。