第9話 君がそこにいるから (12) [△ ▽]

 目の前の青年は、金髪の、線の細い少年だった。
 その少年が魔法を唱えた瞬間、光の輪が無数に現れ、彼を包んだ。何が起こるか、それは理解できなかった。それでも。
 殺せば、魔法は止まる。
 リングガンを向け、3番弾に変更、すぐ目の前にいるこの男の頭部を狙って、トリガーを押した。
 だが。
 数百の弾丸は閃光の輪に弾かれる。黄色い閃光と、赤い弾芯が花火のように煌めく中、
『当たれ! 当たれ!!』
 輪のひとつが大きくなり、目の前で、石人の足下に付けられた装置が砕かれ、それは巻き込まれて輪を崩し、火花を上げてのたうち回った。
『……クロフネ
 黒い機花は、残り4機のエアレールを使って、浮かび上がろうとしていた。
『その位置からエネミー02を狙撃しろ』
 クロフネは上昇を止めホバリングし、機体下の銃を向ける。砲身2メートルのそれが音もなく閃光の球を狙う。
 いかずち
 空気を切り裂く轟音と共に一条の火線が闇夜に曳かれ、シーバリウを取り巻く閃輪が弾け飛び、無数の火花が飛び散り、地面を、周りのワースを、黒き石人を焦がす。
 砕けた閃球からシーバリウが弾き出され、宙を舞い、地面を跳ね、転がり、俯せに止まる。
『シーバリウ!!』
 外部スピーカーでの声。ジャージが装甲多脚で近づいていくが、ワース3人がリングガンを構える。
『くっ』
『そうか、シーバリウというのか……クロフネ、現在位置で固定。チャーリー01、替えのSHP-1344cを運んでこい』
 石人に横たわる形で倒れていたワースが立ち上がり、機花の方へと走っていき、高々とジャンプしてクロフネの本体に掴まる。
 その指示を出したワース、デルタ01がシーバリウの方へと歩いていく。
『シーバリウ、シーバリウぅ!!』
 だが。
 シーバリウは、俯せたまま、微動だにしない。
 シーバリウに、声が届かない。
 心にも、返事をしない。
『殺させない!!』
 ジャージはレバーを前に倒し、装甲多脚を進ませる。足を一本失って5脚で走る様は、たどたどしい。
『アルファ02、ブラボー01、ブラボー04、破壊しろ』
 3人のワースが、リングガンを持ち上げる。
 ジャージは、頭上のスイッチを入れる。
『!?』
 走行中の装甲多脚の、そのパイロットシートが開く。装甲多脚前面下部のカプセル型ハッチが開き、シートごと下に降りていく。すぐ真下の地面が凄まじい勢いで後方へと流れ闇夜へと消えていく。
「お願い、効いて!!」
 眼前に迫る、リングガンを構えるワースを睨み付けるようにして、ジャージは、ゴーグルを外した。