第9話 君がそこにいるから (6) [△ ▽]

「ねぇ、この怪我がなかったら、私行っても良かった?」
 うめが、隣に寝るはこねに尋ねる。
「私が怪我してなかったらいいって言ってたかも。私も行ってただろうから」
「そっか……」
「それに、紫恋ちゃんと一緒に行きたかったでしょ?」
 むらさきが苦笑いで訊く。
「……うん」
 やっぱり。
 なんでだろう、パパよりも、王子よりも、紫恋が心配だった。
「本当は、高士ちゃんも紫恋ちゃんにも行って欲しくなかったんだけど、あの子達、変に正義感強いから」
「正義感じゃないような気がします」
「え?」
 屈託のない笑顔で。
「紫恋は、王子のためにするんじゃないかな。自分のためでもなく、この町のためでもなく。私もそうだし」
「……シーバリウさんって、人望あるんですね」
「彼は王子ですし」
「でも、王子らしくない気もするけど」
 それは、はこねの疑問。
「王子らしくない?」
「王子って言ったら、後ろでくつろいで、何が起こっても我関せず、のわがままな子供っていうイメージがあるんだけど、ママは」
「確かにそう言われればそうですね。そういう意味では、シーバリウさんには王子らしいカリスマは感じませんね」
「王子らしいカリスマ?」
「そう、女はね、駄目な男の子を見ると、母性本能をくすぐられて助けたくなっちゃうの。でも彼にはそういう魅力はないのよね」
「王子はなんでもできちゃうから、助けがいがないんですよね」
「そうなんだ……」
 そう言われてみればそうかもしれないけど……ってゆーか、駄目な男を好きになるってことあるのかな。
「まだうめちゃんにはわからないかな?」
「う」
「じゃあ、うめは王子のどんなところが好きなの?」
「うーん……真面目で、素直で、屈託がなくて、話聞いてくれて、そういうところかな」
「それ、まるで――――」
 犬みたい。
「……まるで、何?」
「あ、そろそろ時間ね」
 カウントは、残り8分を切った。