第8話 アイとコイと (6) [△ ▽]

「かんぱーい!」
 新宿東口の飲み屋、その一卓に座る4人が生ビールのジョッキを合わせる。
「プロジェクト成功、おめでとうございます!」
 二十代前半の青年がピッチャーを差し出す。
「本当にこのプロジェクトにお招き頂き、ありがとうございました」
 ジョッキを差し出すのは髪の短い三十代前半の男性。少し痩せた、技術職風。
「こちらこそ、あなた方の技術力がなければ成功していませんでしたよ」
 青年の隣に座る、童顔だが頭のはげ上がった男がピッチャーを差し出す。
「そんなそんな、クレームの件ではフォローして頂いて」
 技術職風の隣に座る三十代後半男は逆にがっちりとした体型をしていて、差し出すジョッキを持つ手も大きいが、糸のような目で常に笑っていた。
「まぁこのようなことを言ってしまうと身も蓋もないですが、ちゃんと予算にリスク費は含まれていますから」
「それでも御社は非常に対応が早くて、ああいった問題は誰も手を付けたがらないものですから。ぜひ次もよろしくお願いいたします」
「あ、部長」
 二十代の青年が気付いたように禿げた部長と目を合わせる。その前に座る三十代の男二人は目を輝かせる。
「実はですね、こんな案件があるんですよ」
 お酒の席でなんですが、と断りを入れながら、鞄から紙を取り出し、IDとパスワードを入れてから表示書類を選択する。
「あ、これ朝のニュースで流れていたのですね」
 三十代後半の頭に疑問符が浮かんでる間に、三十代前半の男が携帯端末を出し、その映像を観る。
「暗囲閉牢ですね」
「これなら我が社のSHP-1344cで対応できますよね。そうですね、概算で2500万といったところでどうでしょう」
「えっ、そんなにお安くていいんですか!?」
「あー、えーっと実は今こいつ私に無断ですごい安い金額言いました。でも言っちゃった以上、いいでしょう!」
「いいんですか!?」
「いいですか!」
 あはははは、と笑いが起こる。
「じゃあ今契約しちゃいましょうか。前回と同じく、必要な人員はこちらでということで。買い切りでよろしいんですよね」
「はい、あ、でも一人35万は、少し高いような……」
「商売上手ですねぇ、では一人32万で。でも保険はちゃんと付けてもらいますよ」
「それと部外人損が53人ですね、村まるごとになりますから。H絡みですけどその辺はフォローしていただけます?」
「はい、調停委員会は押さえてありますからご安心ください。ではこれに」
 IDカードを照らすと、「認証」の文字と共に朱色のハンコマークが現れる。
「いやーめでたい、もう次の契約をして頂けるなんて」
「いえいえいえ、御社とはこれからも長くお付き合いをしていけたらいいなと」
 再びピッチャーを差し出し、笑い声は続いていた。