第7話 灰色の鬼、白き翼 (18) [△ ▽]

「よろしいですか?」
「早くして」
 痛みに耐えるうめを紫恋は背中から抱き、その紫恋の背中をシーバリウが抱く。
 一週間前の事を思い出す。あの時も、気持ちよかったな……。
「いいですか、紫恋さんの視界に何かが現れるはずです。それをきっかけにしてください」
「何かって、何?」
「それはわかりません、借威対象によって異なりますから」
「そか……いいよ、始めて」
 シーバリウは深呼吸して、息を整える。
 純粋魔法。
 ……こんなに魔法力に困るなら、もっと勉強しておけば良かった……。
 頭を振って、雑念を取り払う。
 集中。


【右腕が紫恋の首に絡む】
【右手が紫恋の頬を撫る】
【顧菱L椅&嚔轌▲蟻⊥】
【左手が紫恋の髪に絡む】
【左腕が紫恋の胸を掠る】
 純粋魔法、発動。
『ッ!!』
 紫恋の視界に、極彩色の空間が現れる。
 吐き気を催すほどの、強い臭い。
 時間さえ狂うほどの、耳障りな轟音。
 その中を駆け巡る、閃光。
 白く光る閃光が紫恋の周囲を目にも止まらぬ速さで駆け巡る。その数、十、二十、三十。
 しかしそれは。
 なぜか紫恋には、なじみ深い、理解できる、心強い、何かだった。
 私はこれを、知っている。
 表層意識には出てこない、自分の中に眠っていた何か。
 それが、きっとこの前の祭の夜に、表へと出てきた。
 いや、もしかしたらもっと前、最初の夜から……。
 私の中に眠る力。
 現れてはいけなかった力。
 高士が、父さんが、私や母さんを腫れ物のように扱っていた原因。
 あの化け物を蘇らせたのも、きっとこの力。
 でも。
 私は受け入れる。
 父のため。
 母のため。
 王子のため。
 高士のため。
 そして、この暖かい背中のために――
 ――ただひとつの閃光が、自ら包みこまれるように、伸ばす両手へと飛び込んだ。