第7話 灰色の鬼、白き翼 (12) [△ ▽]

 木々の中をうめと高士が駆け下りる。視線は待逢神社に固定して。土煙は、まだ上がっている。
「これなら1分も掛からないね」
「ああ、大丈夫、絶対に間に合う」
「うん、間に合わせる」
 木々の間から河原が見える。
 あと少し、あと少し……。
「……うめさん」
「ん?」
「……こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど……思ったより、怒ってないみたいだけど」
「そりゃもちろん。悪いのきっと紫恋だもん」
「なるほど」
「王子はああでも言わないと魔法掛けてくれなさそうだったし。それよりも」
 うめがいやらしい笑みを浮かべる。
「高士君の方が怒らないのが意外だなー。お姉さん取られちゃって怒らないの?」
「……別に姉さんに恋愛感情はねえよ。それに……」
「?」
「本当は、言わなくちゃいけなかったんだ」
「え……」
「姉さんには、待逢の女には特殊な力が宿ってるんだ。母さんがそうだった」
「あのママさんが!??」
「俺も直接は見たことはないけど、父さんがそう言ってた。……川だ」
 二人は飛び上がり、川と道路を飛び越えて直接石段へと降り、そして駆け上がる。
「もちろん、あの化け物の話は聞いてなかったけど……少なくとも、姉さんに魔法みたいな力があるっていう話はしておかなきゃいけなかったんだ。だから」
 高士は歯を食いしばる。
「俺にも原因はある」
「……でも、それも紫恋のことを思ってなんでしょ?」
「え?」
「紫恋言ってたよ、神社のこと何も教えてくれないって。私、仲間はずれかもって」
「そうだったんだ……」
「それってやっぱ、それがきっかけで変なことになるんじゃないか、って思ってたんでしょ?」
「……」
「紫恋助けてさ、なんだーそうだったんだーははは、って笑ってさ、それで終わりにしよ? 色々あってもさ、最後にみんなで笑ってればそれでいいんだよきっと」
「……そうなのかもな」
 つられて、高士も笑みが浮かぶ。
 ひびの入った鳥居が見える。
「じゃ、行くよ」
「うん」