第7話 灰色の鬼、白き翼 (9) [△ ▽]

 背筋が、凍った。
 シーバリウは、石の方を見る。
 紫恋の泣き声に応えるように、石が縦に割れる。
 中から、朱色の、玉。
 シーバリウの目が見開く。
「!!」
 たとえようもない、恐怖。
 これは、あってはならないもの!!
 シーバリウは咄嗟に手を伸ばす。
 が、その手をすり抜け、法玉は本殿の床を転がっていく。
「っ、二人とも逃げて!!」
「え?」
 シーバリウ以外の誰も、状況を理解していない。
 当然だった。ただ、赤い石が転がっているだけだった。
 その石が、本殿への階段を転がり落ち、二人の見守る中、石畳の上に落ちるのを見届けるまでは。
「え――」
 朱玉が、閃光、石畳が波打ち、崩れる。
「ひっ」
「きゃっ!!」
 紫恋とうめがお互いにしがみつき、しゃがみ込む。
「姉さん!!」
『フィルツィウォード!』
 二人を風が包み、宙へと運び上げる。その地面も崩れ、立方体形の石角が浮かび上がり、朱玉へと集まる。
 それは。
「何……これ……」
 人のような形をしていた。
 数十の石が宙に浮き、足を、腕を胴体を、頭を形成する。朱玉は8つの石の中に挟まれ、胴体を成す。頭に当たる石が振動し、その振動が終わると、まるで砂利のような数百の石片が逆立ったドレッドヘアのように波打っていた。
 その石片の一束がうめと紫恋へと向く。
「!!」
 シーバリウが腕を引き、その動きに合わせてうめと紫恋が浮いたまま本殿へと入っていく。
 その二人が突然弾かれる。
あ”っ
ん”ッ!?
 二人は離れ、うめは本殿奥へ、紫恋は欄干に当たって軒に転がる。一瞬後に風が本殿を掻き殴る。
 石の腕が、二人を弾いた、そう、すでに振り抜かれた腕を見て、理解する。
 その腕が本殿を削るように紫恋を抱える。
「!」
 シーバリウが駆け出そうとした時、それは地面を揺らして、跳ねた。