第6話 祭の夜に (20) [△ ▽]

 振り返り前を見てなかったシーバリウが、人に当たりあらぬ方向に進む。
「あっ、王子!」
 それをうめが追い、シーバリウの手首を掴む。
「うめさん? !」
 今度は逆にシーバリウがうめを抱き寄せる。
「えっ……きゃっ」
 人の流れが増え、二人の背中が押される。シーバリウはうめ(とわたあめ)を守るようにして端へ端へと移動していく。
「大丈夫ですか?」
「うん……」
 うつむき赤くなるうめを連れて、屋台の裏手へと出る。仮設のベンチが置かれ、ヤキソバを食べる家族やかき氷を食べるカップルが座っていた。
「はぁっ、もう大丈夫です」
「うん。なんかいきなり混んだね」
「団体さんでしょうか、大勢で来られているみたいでしたから。とりあえず座りましょうか」
「そだね、わたあめ食べちゃわないと」
 二人はベンチに座りわたあめをほおばる。
 まだまだ大きいわたあめを脇からかじるシーバリウを、うめはほのぼのとした目で見る。
「……? どうされました?」
「楽しそうだなーって思って」
「ええ、お祭りって楽しいです。ここではすべてが未知の経験ですから」
「むこうにはお祭りとかないの?」
「季節の儀式はあります。豊作を願う宴とか、死者を弔うものもあります」
「そういうのは同じだけど、屋台や射的はないってことね」
 そう言って、クマの人形を手に、ぎゅっと握る。
 シーバリウの隣に座っていると、その身体を強く意識する。
 高い背、力強い腕、暖かい胸、その隣にいるだけで、その全てを感じてしまう。
 王子と一緒にいると、ホッとする。
 王子に暖かく包まれたい。
 王子とずっと一緒にいたい。
「王子、キスして」
「え――」
 シーバリウが振り向く。すぐ隣に座るうめが、体を寄せ、上目遣いに見上げてから、瞳を閉じる。
「……はい」
 シーバリウは右手を伸ばし、うめの頬へと手を添える。それに反応して、求めるようにうめの唇が上がる。すぐ側にある、うめの顔。眠っているかのような、柔らかな表情。だから、その求めに応えたい。
 ……応えたい……。